平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ウィリアム・ブリテン『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』(論創社)

 巨匠J・D・カーに憧れ、自ら密室殺人を企てる青年。クイーン顔負けの論理で謎を解く老人。身に覚えのない手紙を受け取ったアメリカ在住のワトスン。ユーモラスな結末の表題作をはじめ、「エラリー・クイーンを読んだ男」、「コナン・ドイルを読んだ男」等、ミステリへの深い愛情とあざやかな謎解き、溢れるユーモアで贈る<~を読んだ~>シリーズ全十一編。付録として、チャールズ・ディケンズの愛読者が探偵として事件に挑む「うそつき」等三編を収録。EQMMの常連作家ブリテンによる、珠玉のパロディ群をご堪能あれ。(粗筋紹介より引用)
 『EQMM』1965年~1978年掲載のシリーズ11編他3編を収録した、日本独自編纂本。2007年9月刊行。

 

 巨匠J・D・カーに憧れた青年は密室トリックを考案し、遺言状を書き換えようとする叔父を殺害する。「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」。
 老人ホームでイーグル謹賀が盗まれた事件を解く、クイーンマニアの老人。「エラリー・クイーンを読んだ男」。
 巡回ショーの余興をやる一座で働くガート・ジェリスンは500ポンドを超す体重の持ち主。スタウトの本を読んでから、ネロ・ウルフを真似るようになった。「レックス・スタウトを読んだ女」。
 ポアロに心酔した少年が、村のあちこちでおかしな行動をとる青年たちの目的を推理する。「アガサ・クリスティを読んだ少年」。
 小さな新聞社の社長兼編集長兼スタッフを独りでこなしている男に、あて先はあっているが中身は身に覚えのない手紙が届く。「コナン・ドイルを読んだ男」。
 ブラウン神父を愛読する神父が、自殺として片づけられそうな事件に異議を申し立てる。「G・K・チェスタトンを読んだ男」。
 図書館に勤める70歳のミステリ好きの老人は、ただ一つの手がかりを基に、1時間以内に図書館の書棚に隠した『マルタの鷹』初版本を探す賭けに応じる。「ダシール・ハメットを読んだ男」。
 シムノン好きの大型トラック運転手は、相方と一緒にある屋敷へ美術コレクションを届ける。「ジョルジュ・シムノンを読んだ男」。
 15歳の少女は、捜査から帰ってきた父が手掛けている事件のダイイング・メッセージの謎を解く。「ジョン・クリーシーを読んだ少女」。クリーシーのペンネームの一つは、J・J・マリック。
 「黒後家蜘蛛の会」に合わせて居酒屋に集まった5人に新聞記者は、百貨店に置かれた金庫の5つの数字の組み合わせを解いてほしいと依頼する。「アイザック・アシモフを読んだ男」。
 交通事故で妻を亡くした男は、車を運転していた男にコンクリートブロックを持ってきてもらう。男は酒を勧めた後、手伝いを頼む。「読まなかった男」。
 金持ちの男が、脱出専門のマジシャン兼捕まったことのない犯罪者の男と、彼をずっと追いかけてきた元警官で私立探偵の男。金持ちの男は、かつての偉大なマジシャンが使っていたザレツキーの鎖からの脱出ができるかを持ち掛ける。「ザレツキーの鎖」。
 研究所設立から務めている老人の所員が、ワトキンズ少佐に研究所の仕事から外してほしいと依頼する。「うそつき」。
 低所得者層がほとんどのブラット街は、今まで犯罪とはほとんど無縁だった。ところが4月上旬のある晩、質店から何者かが逃げて、店主が泥棒に入られたと叫んだ。「ブラット街いレギュラーズ」。

 

 表題作「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」は密室パロディの傑作で、しかもブリテンには他にも「~を読んだ」というタイトルの作品が多くあることを知っていたので、この短編集が出た時はとてもうれしかった。なのに今頃読むというのは……何回これを書いただろう。
 なんかほとんど余技みたいなイメージがあったけれど、作者は教職の傍ら1964年にミステリ作家としてデビューし、ジュブナイルファンタジーの作品も複数あるそうだ。
 表題作が倒叙もののパロディだったから、他も似たようなものだと思ったら、意外と本格ミステリばかりでちょっと拍子抜け。全部パロディと思っていたのになあ。ただ真似して推理するだけじゃ、つまらないじゃない。いや、実際にはそんなにつまらないわけではないんだけど、まあ期待と違った方向の作品集だったな、というわけで。
 一番面白かったのは、シリーズ外の「ザレツキーの鎖」。本作品集中一番ページ数が多いが、内容もかけの内容からの意外な展開で読みごたえがある。むしろこういう風の作品、他のもないのかなあ……。それにこのマジシャンと元刑事も他にシリーズ作品があったらなんて思ってしまった。
 ということで時間のできた時に一気に読んだんだけど、まあ、こんなものも時には面白いかな、という感じでした。