2016年4月、講談社より単行本刊行。2017年、第19回大藪春彦賞受賞。2019年3月、講談社文庫化。
大藪賞受賞ということでずっと気になっていた作品。ようやく手に取りましたが、うーん。
小曾根百合と細見慎太がひたすら逃げる物語。かつて息子を亡くした百合が心を取り戻したり、慎太が成長したりする部分はあるのだが、それでも逃げ回る部分が圧倒的に多い。現代が舞台だったら、読むのをやめていたかもしれない。
この作品の面白いところは、関東大震災後の東京の描写である。復興への活力と、震災の傷跡の苦しみと、そして迫りくる軍人の時代の恐怖。それらが入り混じって丁寧に描かれているから、百合と慎太の逃避行が面白く読める。
足の悪い少年連れで、隠密行動とはいえ陸軍からの追跡を逃れられるかという点については無視しよう。逃げ切れるかどうかというサスペンスの部分については、あまり面白みがない。百合が活躍する活劇ハードボイルドとして楽しむ一冊。