平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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福澤徹三『すじぼり』(角川文庫)

すじぼり (角川文庫)

すじぼり (角川文庫)

ひょんなことからやくざの組事務所に出入りすることになった大学生の亮。そこは個性豊かな面々がとぐろをまく強烈な世界だった。就職先もなく、将来が見えないことに苛立ちを感じていた亮は、アウトローの男たちに少しずつ心ひかれていく。しかし、時代に取り残された昔ながらの組には、最大の危機が訪れようとしていた。人生をドロップアウトしかけた青年の一夏の熱くたぎる成長ドラマを描いた第10回大藪春彦賞受賞作。(粗筋紹介より引用)

野性時代』2006年3月号〜7月号連載。2006年11月、角川書店より刊行。2008年、第10回大藪春彦賞受賞。2009年7月、角川文庫化。



北九州市でタクシー運転手の父親と二人暮らしの私立大学4年生、滝川亮が2人の友人と繁華街のクラブで大麻を盗もうとし、見つかって逃げ込んだバーで速水総業の組長・速水晃一に助けられる。速水から19歳の組員松原正太にパソコンを教えるアルバイトをもらった亮は、彼らに魅かれていく。

何も努力をしないでただ不平不満を言い、就職の時期になってもろくに活動をしない若者である亮に苛立ちながら読み進めた。昔気質のやくざと触れ合った若者の成長物語かもしれない。古いやくざが終わる姿の一つを描いた作品といってもいいかも。一応、父と子の対立も書かれている。色々な要素がミックスされながらも、物語は小石が坂道を転げ落ちるかのようにどんどん悪い方向へ流れていく。

個人的には一昔前の任侠小説に若者を絡めた話にしか思えなかった。暴力団の組長だったら、厄介事などサッサと切り捨てるだろうし、組に入れるつもりのない素人を通わせるという神経が今でもわからない。亮や友人の和也、翔平の考えや行動も首をひねることばかりだ。平気でデリヘルの面接を受ける菜奈に至っては理解不能。それでも事態がエスカレートしていく描き方は、なぜか知らないが妙な迫力がある。読み始めたらやめられない麻薬のような魅力がここにある。

結末のあっけなさも含め、不満点は多いのだが、何だか妙に印象に残る作品。亮がその後どうなったのかは、非常に気になる。読者にそう思わせるということは、この作品は成功しているのだろう。