平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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近藤史恵『サクリファイス』(新潮社)

サクリファイス

サクリファイス

白石誓は高校時代に陸上の中距離走でインターハイ1位となったが、期待が重荷となって大学でロードレースに転向。卒業後、プロロードレースチーム「チーム・オッジ」にスカウトされた。山登りを得意とし、サポートを担当している。今年、白石はエースの石尾豪、アシストの赤城、同期で期待のホープ伊庭和実とともにツール・ド・ジャポンの参加メンバーに選ばれた。3日目の南信州ステージで白石は大番狂わせの優勝。このレースに参加していたマルケス・イグナシオより、スペインのプロチーム、サントス・カンタンが日本人選手を探していることを伝えられる。

5つ目の伊豆ステージまでは総合1位だったが、このステージで石尾の自転車がパンク。石尾は「来い」とサインを出す。無視すれば総合1位も夢ではなかったが、白石はアシストに徹して石尾の元に行く。そして最終ステージも終わり、チーム・オッジが総合優勝、石尾が1位。白石も総合10位に入ったため、リエージュルクセンブルクのレースに参加することとなった。そこで悲劇が起きる。

2007年8月刊行。2008年、第10回大藪春彦賞受賞。第5回本屋大賞では惜しくも2位だった。



周囲の評判はよかったし、大藪賞を取っていたことも知っていたが、買うだけ買ってそのままにしていた1冊。まあ、素直に評判を信じるんだったね、と少々後悔。

ロードレースを舞台にしたミステリ兼青春小説。長大化している今日からしたらちょっと短いけれど、内容はとても濃い。

エースとして冷酷であり、かつては期待のホープだったチームの後輩を故意の事故で下半身不随にしたとの噂がある石尾、チーム最年長であり石尾の影として7年間サポートに徹してきた赤城、次期エースを目指す伊庭、石尾に潰されて今は車椅子でのラグビー選手である袴田、白石のかつての恋人初野香乃など、登場人物も多種多彩。特に、石尾や赤城のプロ意識が恐ろしい。勝利のためにここまですることができるのかと思ってしまった。そして、このメンバーの中では一見地味に見える白石の芯の強さが、物語を通じてより一層鮮やかに照らし出される。

それにしても、本のタイトルであり、最終章の「サクリファイス」(生け贄を意味する)は非常に深い言葉である。

続編『エデン』、『サヴァイヴ』、『キアズマ』があるそうだが、手に取ってみるか。