平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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桐野夏生『残虐記』(新潮文庫)

 自分は少女誘拐監禁事件の被害者だったという驚くべき手記を残して、作家が消えた。黒く汚れた男の爪、饐えた臭い、含んだ水の鉄錆の味。性と暴力の気配が満ちる密室で、少女が夜毎に育てた毒の夢と男の欲望とが交錯する。誰にも明かされない真実をめぐって少女に注がれた隠微な視線、幾重にも重なり合った虚構と現実の姿を、独創的なリアリズムを駆使して描出した傑作長編。(粗筋紹介より引用)
 『週刊アスキー』2002年2月5日号~6月25日号連載。加筆修正のうえ、2004年2月、新潮社より単行本刊行。同年、第17回柴田錬三郎賞受賞。2007年8月、文庫化。

 

 小海鳴海は16歳でデビューし、著名な文学新人賞を受賞。その後も問題作を発表し、様々な賞の最年少記録を塗り替え、早熟な大家と呼ばれる。しかし35歳のいまでは文芸誌には原稿を書かず、女性誌やPR誌にエッセイを書いて糊口を凌いでいる。その小海が『残虐記』という手記を残して失踪した。自分は小学4年生の時に誘拐され、1年以上監禁された被害者であった。その犯人から手紙が届き、主人公は手記を残して失踪する。
 うーん、読み終わってみてももどかしさが残る。誘拐した男と少女との関係は、男が妄想しやすい内容とそれほど差があるわけではない。そこに色々な内容を付加しているのだが、かえって空々しい物語になっている。
 本来なら、もっと主人公の葛藤、妄想などが書かれてもいいのではないか。主人公が「性的人間」というのなら、もっとそれらしい世界観の妄想が必要。また、主人公を取り巻く人々に、もっと筆を費やしてもいいのではないか。あまりにも物足りなく、あまりにも呆気ない。これを読者の想像で補えというのは、あまりにも突き放しすぎだろう。
 短すぎる、筆不足のことばに尽きる作品。