平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

T・ジェファーソン・パーカー『サイレント・ジョー』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 赤ん坊の頃、実の父親から硫酸をかけられ顔に大火傷を負ったジョーは、施設にいるところを政界の実力者ウィルに引き取られた。彼は愛情をこめて育てられ、24歳になった今は、保安官補として働いている。その大恩あるウィルが、彼の目の前で射殺された。誘拐されたウィルの政敵の娘を保護した直後のことだった。ジョーは真相を探り始めるが、前途には大いなる試練が……アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞に輝く感動作。(粗筋紹介より引用)
 2001年、発表。2002年、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞受賞。2002年10月、早川書房より単行本刊行。2005年9月、文庫化。

 

 幼い時に父親から顔面に硫酸をかけられ、母親から捨てられた24歳の保安官補ジョーが主人公。誘拐された実業家ジャック・ブラザックの娘・サヴァナを、養父でオレンジ郡群生委員のウィルとともに保護するも、そのウィルが目の前で殺され、娘もまた行方不明になり、復讐すべく事件の真相に乗り出す。すると、ウィルの過去や事件の背景が明らかになっている。
 サイレント(静かなる男)・ジョーの一人称により物語が進むのだが、そのテンポが名前の通り静かで、そしてゆっくりと進む。登場人物も多くて大変だが、それ以上にジョーの内面が言葉遣い同様に丁寧すぎるほど書かれており、時々まどろっこしくなった。事件の真相を追う作品ながら、主人公であるジョーの再生と成長、そして家族の絆を描いたような作品になっている。ハードボイルドなのに、どことなく純文学を読んでいるような気分にさせられたのは、そんな丁寧で重厚な筆致のせいだろうか。
 本作は1985年にデビューした作者の第9長編であるが、解説の北上次郎が言うには、本作で化けたとのことだ。他の作品を読んでいないので何とも言えないが、本作が力作であることには間違いない。ただ長すぎる感があるので、退屈に思う人はいるかも。