平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジェラルド・カーシュ『壜の中の手記』(晶文社)

壜の中の手記 晶文社ミステリ

壜の中の手記 晶文社ミステリ

アンブローズ・ビアスの失踪という米文学史上最大の謎を題材に、不気味なファンタジーを創造し、MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞を受賞した名作「壜の中の手記」をはじめ、無人島で発見された白骨に秘められた哀しくも恐ろしい愛の物語「豚の島の女王」、贈られた者に災厄をもたらす呪いの指輪をめぐる逸話「破滅の種子」、18世紀英国の漁師の網にかかった極彩色の怪物の途方もない物語「ブライトンの怪物」、戦争を糧に強大な力を獲得していく死の商人サーレクの奇怪な生涯を描いた力作「死こそわが同志」他、思わず「そんなバカな!」と叫びたくなる、異色作家カーシュの奇想とねじれたユーモアにみちた傑作集。(粗筋紹介より引用)
2002年7月、刊行。傑作異色短編を集めた、日本オリジナル短編集。



「豚の島」として知られている無人島で見つかった人間の骨。サーカス団の「恐怖の巨人ガルガンチュア」と「双子の小人チックとタック」と手も足も無く生まれた「ラルエッと」だった。「豚の島の女王」。

酒場で無一文だった男から聞かされたのは、アマゾン川の支流に純金で莫大な財産が入る場所の話。そこではティクトクという遊びに大金をかけているという。「黄金の河」。
開拓地の中にあって、絶対逃げられない監獄に入っている無期刑を受けた男。すでに二十年入っているが、ある日、ラトン族のインディオを助ける。「ねじくれた骨」。

プエルト・ポブレでバナナを積み込んでいたクレア・ドッジ号に、一人の男が乗り込んでくる。理学博士のグッドボディーと名乗った男は、アメル川の奥地のジャングルで行方不明になったヨーワード教授の助手をしていた。グッドボディーは、骨のない人間を怖がっていた。「骨のない人間」。

私がメキシコのクエルナバカで行商人から購入した瓶には、ある手記が入っていた。それは、行方不明になったアメリカの作家、アンブローズ・ビアスのものだった。「壜の中の手記」。

1943年、ピープル誌の編集長だったハリー・エインズワースのオフィスの表の通路にあった屑の山の中に、恐ろしいことが書かれた小冊子があった。1745年にサセックス地方の沖で漁をしていた船頭が怪物を捕獲した一件だった。「ブライトンの怪物」。

カジノで知り合った元時計職人のポメル伯爵が語ったのは、有名な時計蒐集家のニコラス三世の死にまつわる話だった。700個以上にのぼる時計コレクションを持つ年老いた王は、ポメル達が作るからくり時計のニコラス大時計の陥穽を楽しみに待っていた。「時計蒐集家の王」。

ヒューイシュ博士は温室で様々な食虫植物を育てる。そして試験管の血液を1本ずつ、養分として与えていた。多数の殺人を犯した、残虐な精神異常者の少年の血液を。植物は動物をおびき寄せて発狂させるようになる。「狂える花」。

ヘクトー・サーレクは武器商人として成功し、死の代理人と呼ばれるようになった。世界中の王も大統領も、彼にひれ伏する。しかし、彼は楽しいことなど何一つなかった。そして彼は、より強大な兵器を作り続ける。「死こそわが同志」。



ジェラルド・カーシュは著作リストを見ると短編をいくつか読んでいたようだが、全然覚えていない。単行本が出たとき、これはと思い購入したものの、結局読んだのは今頃。まあ、よくある話だ。

こうしてまとめて読んでみると、本当にへんな作家である(誉め言葉)。発想がひねくれているというか、明後日の方向に向いているというか。それが何故か面白いのだから、たまらない。どこからこんな発想が出てくるのだろう。

個人的な好みでは、「壜の中の手記」「死こそわが同志」あたり。皮肉に充ちた作品が多い中でも、「死こそわが同志」は何とも痛快。それでも人間は平気を作ることを止められないのだろうなあ、などと思ってしまう。

SFっぽいものもあり、ミステリっぽいものもあり。しかしどれを読んでもカーシュの作品だな、とまとめて読んでみるとそう答えてしまいたくなる。多分この人の作品は、まとめて読むべきなんだろうな。一篇だけ読んでも、面白さが今一つ伝わらない。少しずつ読み続けていくうちに、自分の脳神経も毒されていく、その瞬間がたまらないのだろう。