平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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河野典生『他人の城/憎悪のかたち』(創元推理文庫 日本ハードボイルド全集第3巻)

 妹の真理を探してほしい――作家の高田は、三村という青年医師から依頼される。真理は、高田が以前書いたルポルタージュに登場する女性だった。捜査の過程で、関係者の死体や三村家の内情などに直面する高田だが、真理本人にはなかなかたどりつかない……。一見ありふれた失踪事件が忘れがたき余韻を残す直木賞候補作の長編『他人の城』に加え、五つの傑作短編を収録。日本独自のハードボイルドを生み出すことに極めて意欲的であり、人物・構成・文体とあらゆる面で模索を続けた河野の初期代表作を集成する。巻末エッセイ=太田忠司/解説=池上冬樹。(粗筋紹介より引用)
 2022年1月、刊行。

 

 正統派ハードボイルドの第一人者であった河野典正の代表作を集めた一冊。長編の代表作の一つ『他人の城』は、ロス・マクドナルド風のハードボイルドを自らの作風として取り込み、日本ならではのハードボイルドを生み出すことに成功した輝かしい作品である。
 戦後の混乱によって生み出された者たちが織り成す悲劇を、ハードボイルドの視点で書かれた作品群は、時代背景こそ古いかもしれないが、今読んでもその光の輝きを失っていない。
 ただ作者は、徐々に純文学や中間小説、SFなど様々な作品を書くようになり、『アガサ・クリスティ殺人事件』のような本格推理小説の傑作も残している。できれば後期にも名を残すようなハードボイルドの傑作を描いてほしかったと思うのだが、これは単に私の見識不足だろうか。