平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジョルジュ・シムノン『死んだギャレ氏』(創元推理文庫)

ロアール河の避暑地のホテルで、セールスマンのギャレ氏が死んでいた。弾丸に顔の半分を吹きとばされ、その上、心臓をナイフで一突きにされて。弾丸は道路をへだてた隣家の庭園のほうから飛んで来たのだった。一見、単純な事件のようだが、捜査に乗り出したメグレ警部の前には、つぎつぎと不審な事実が暴露される。ギャレ氏とは何者か? 殺人の動機は? 犯人は? 偉大なるメグレ警部の生みの親、シムノンの輝かしい処女作!(粗筋紹介より引用)

1931年発表。1961年7月、創元推理文庫版邦訳刊行。



1937年に『ロアール館』のタイトルで、春秋社より刊行されているらしい。メグレ警部の処女作とあるが、実際のメグレ警部の処女作は『怪盗レトン』。単に間違えたのか、『怪盗レトン』が当初他の名義で出版されたのかはいまだにわからない。ググってみると、初めて本名で出版した作品とはあったが。

実は再読。とはいっても前に読んだのは学生の頃だからもう何十年も前。当時あまり面白くなかった思い出しかなかったが、実家を片付けたら出てきたので、200ページちょっとしかないこともあり、読んでみる気になった。

改めて読んでみると、これだけのページ数でもきちんと背景などを書きこんでいるし、セールスマンのはずのギャレ氏が勤め先にはいないという摩訶不思議な事態から捜査するくだりは地味だが読み応えがある。会話文でどんどん話が進むので、展開もスピーディー。それでいて、人をじっくり書くというシムノンらしさはこの作品でも発揮されているのだから、なぜ当時の私はこれを詰まらないと思ったのだろう、と悔やむぐらい面白く読めた。いや、まあ、ベスト級とまで言うつもりはないけれど、大人が読む作品なのかな、と思ってしまう。

まだ薄い本が何冊かあるはずだから、手に取ってみようかと思わせる一冊だった。新訳で復刻すればいいのに……。