平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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東川篤哉『探偵さえいなければ』(光文社)

探偵さえいなければ

探偵さえいなければ

関東随一の犯罪都市・烏賊川市では、連日、奇妙な事件が巻き起こります。でも大丈夫。この街では事件もたくさん起こるけど、探偵もたくさんいるのです。ひょっとしたら、探偵がいなければ事件も起こらないのかも……。日本推理作家協会賞にノミネートされた佳編「ゆるキャラはなぜ殺される」など、安定感抜群のユーモアミステリ5編を収録した傑作集! (帯より引用)

『宝石 ザ・ミステリー』に2013年〜2016年に掲載された5つの短編を収録。2017年6月、ソフトカバーで単行本刊行。



洋食屋のプロデューサーを自認する倉持和哉だが、采配を振るうようになってから店は閑古鳥状態。だからカフェに作り替えたいと頼み込むも、妻の叔父でオーナーの安西英雄はうんと言わない。だからトリックを思いついた倉持は安西を殺害し、アリバイを証明してもらうために探偵事務所の鵜飼杜生を呼んだ。「倉持和哉の二つのアリバイ」。

鵜飼と二宮朱美は、烏賊川市年に一度のビッグイベント「烏賊川市民フェスティバル」に来たが、「烏賊川市ゆるキャラコンテスト」に出場するハリセンボンが喫煙テントの中で、アイスピックで殺害された。一緒にいて倒れるところを見た鷲は、手に物を持つことができない。警察が今来たらパニックになるという市役所観光課長の懇願で、コンテスト開始時間までに事件を解決することになった鵜飼であった。「ゆるキャラはなぜ殺される」。

秋葉原研究所の秋葉原博士はとうとう、人工知能と音声人気システムを持つ人間型二足歩行ロボット「ロボ太」を開発した。ところが開発費用5000万円の返済を深川から求められ、クリスマスイブの夜、秋葉原は深川を殺害。ロボ太を利用して犯行時刻を誤魔化すことにした。「博士とロボットの不在証明」。

塚田京子は、息子の妻の浮気を疑い、鵜飼探偵事務所に依頼をした。鵜飼と見習い戸村流平の調査結果、それが証明された。しかも夫婦が互いに5000万円の生命保険を最近かけ、しかも妻が大きなノコギリを購入していた。妻は実家に出かけている今、調査結果を息子に報告しようと、京子は鵜飼たちと一緒に訪れたのだが、家には鍵がかかっていた。窓ガラスを破って中に入ると、ダイニングキッチンには血の付いたナイフが。血の跡をたどると風呂場に血の付いた大きなノコギリ。湯船のふたを開けると、バラバラになった死体があり、息子の顔が浮かんでいた。「とある密室の始まりと終わり」。

北山雅人は、バーで働く田代直美から、親友の復讐のため、雅人の腹違いの兄である姉小路一彦を殺害したい、その替え玉としてアリバイを作ってほしいと依頼される。直海から見せられたスマホにあった写真は、髪の毛の濃さを除いては雅人にそっくりだった。うまくいけば一彦の代わりに会社を継げると考えた雅人は、その依頼を受ける。被害者によく似た男」。



ユーモアミステリの第一人者として人気作家となった東川篤哉の、原点ともいえる烏賊川市シリーズの最新作。関東随一の犯罪都市とまで開き直る作者のユーモアたっぷりの作品が並ぶ。「倉持和哉の二つのアリバイ」「博士とロボットの不在証明」「被害者によく似た男」は倒叙もの。凝ったトリックがあるわけでもなく、ユーモアと結末の皮肉さで誤魔化している感がなくもない。いや、計画が崩れていく様は面白いんだけどね。

ゆるキャラはなぜ殺される」は本作品中、一番の出来。その場にいた者たちがいずれもゆるキャラの被り物をしているため、その条件まで含めて推理をしなければならない、という特殊状況と、緊張感のかけらもないやり取りが、バカバカしいまでのユーモアを醸し出している。結末がもう少しすっきりしたものであれば、協会賞を受賞していたかもしれない。

「とある密室の始まりと終わり」はあまりにもバカバカしくブラックな展開が待ち受けている。こんなシチュエーション、よく考えたものだと感心してしまった。

ただ、本来のレギュラーメンバーが全員そろった作品は一つもない。「倉持和哉の二つのアリバイ」は鵜飼だけ、「ゆるキャラはなぜ殺される」は鵜飼と朱美、「博士とロボットの不在証明」は朱美のみ、「とある密室の始まりと終わり」は鵜飼と戸村、「被害者によく似た男」は砂川警部と志木刑事である。上乗寺さくらは今回も未登場。彼らのバカバカしいやり取りが魅力の一つであるこのシリーズなのに、メンバーがそろわないというのは何とも片手落ち。

最近の作者は色々なシリーズを書いているが、そろそろ烏賊川市シリーズの長編をお願いしたい。いっそのこと、鵜飼と朱美のロマンスが進むとか、驚きの展開も欲しいところである。