平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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今村昌弘『兇人邸の殺人』(東京創元社)

 "廃墟テーマパーク"にそびえる「兇人邸」。班目機関の研究資料を探し求めるグループとともに、深夜その奇怪な屋敷に侵入した葉村譲と剣崎比留子を待ち構えていたのは、無慈悲な首切り殺人鬼だった。逃げ惑う狂乱の一夜が明け、同行者が次々と首のない死体となって発見されるなか、比留子が行方不明に。さまざまな思惑を抱えた生存者たちは、この迷路のような屋敷から脱出の道を選べない。さらに、別の殺人者がいる可能性が浮上し……。葉村は比留子を見つけ出し、ともに謎を解いて生き延びることができるのか!? 『屍人荘の殺人』の衝撃を凌駕するシリーズ第三弾。(粗筋紹介より引用)
 2021年7月、書き下ろし刊行。

 

 日本でも有数の医療製薬関連企業である成島グループの子会社の社長である成島陶次の依頼により、班目機関の研究資料を手に入れるために向かったのは、"生ける廃墟"として人気を博す地方テーマパークにそびえる「兇人邸」。運営会社の社長かつ兇人邸の主は、元班目機関の研究者。成果を手に入れるため、比留子たちは成島が雇った6人の傭兵とともに兇人邸に侵入する。途中、斑目機関の者たちの回想が差し込まれる。
 剣崎比留子シリーズ第三弾は、現役の"廃墟テーマパーク"にそびえる「兇人邸」。外に出られることも不可能ではないのに、クローズドサークル化してしまうという設定は面白い。ただ年寄りのせいか、イラストもあるのに兇人邸の構造が今ひとつわかりにくく、サスペンス味がそれほど感じられなかったのは少々残念。そういうもんなんだ、と思いながら読み進めていました。
 生き延びれるかどうかというサスペンスよりも、殺人事件の謎よりも、比留子と葉村の関係の方に目が行っちゃったな。どうもマンガを読み返していたせいか、本作の比留子が思ったより冷たく感じていたのだが、前作を思い返すと、比留子はこういう性格だったよな、と今さらながら思い出してしまった。ホームズとワトソンという二人の関係を、今さらながら認識させられたというか。個人的には比留子と葉村の何気ない会話が好きなんだが、今回はそれがほとんどなかったのが残念。
 殺人事件の謎の方は、途中まではそれほど盛り上がらなかったが、最後の一気呵成の謎解きはお見事。ただなあ、登場人物欄を見るだけでキーマンがだれかわかってしまうのはちょっとなあ。それと、最後の引きは卑怯! さっさと次作を出せと言いたくなる。
 前二作と比べると、ちょっとまどろっこしいところはあるけれど、十分楽しむことができた。なんだかんだ、今年のベストには入ってくるだろう。