平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ピーター・スワンソン『アリスが語らないことは』(創元推理文庫)

 大学卒業を数日後に控えたある日、ハリーは古本屋を営む父親が事故死したという知らせを受ける。急ぎ実家に戻ると、傷心の美しい継母アリスが待っていた。葬儀の翌日、ハリーは刑事から意外な話を聞かされる。父親は海辺の遊歩道から転落して死亡したが、その前に何者かに殴られていたという。しかしアリスは父の死について話したがらず、ハリーは疑いを抱く。――これは悲劇か、巧妙に仕組まれた殺人か? 過去と現在を行き来する2部構成の物語は、ある場面で、予想をはるかに超えた展開に! 『そしてミランダを殺す』の著者が贈る、圧巻のサスペンス!(粗筋紹介より引用)
 2018年発表。作者の第4長編。2022年1月、邦訳刊行。

 

 作者の小説を手に取るのは初めて。過去の作品が評判が良かったので結構期待していた。
 父親が転落死したと聞き、メイン州ケネスウィックの実家に戻るハリー・アッカーソン。ところが父親には殴られた痕があるという。継母のアリスは何か秘密を隠している様子。傷心のアリスを慰めつつ、父親の死の真相を探すハリー。これが現代パート。
 多額の和解金を得て、母親のイーディスとともにケネスウィックに引っ越してきた14歳のアリス・モス。アリスは毎日、ビーチで泳いでいた。イーディスは銀行員のジェイクと再婚。これが過去パート。
 現在パートと過去パートが交互に語られ、ある場面から物語は意外な方向へと進み、そして現在と過去は交錯する。
 読んでいるときは面白く、作品世界に引き込まれる。所々で出てくる名作ミステリの引用は、読んでいて楽しい。登場人物や背景の描写、そしてプロットはうまいと思う。ただ読み終わってみると、それほど意外性がない、というのが本当のところ。日本ではひねくれた、時にはひねりが行き過ぎた作品が多いせいか、なんかおとなしく感じてしまう。帯にある「ミステリにとてつもない衝撃を求める、あなたへ」の言葉が、少々虚しく感じてしまった。
 面白いし、よくできているとは思うんだけれどね。日本作品だったら、こじんまりとまとまってしまった、という感想に落ち着きそう。そういう意味では、刺激に毒されているのかもしれない。