平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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米澤穂信『追想五断章』(集英社文庫)

追想五断章 (集英社文庫)

追想五断章 (集英社文庫)

大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光は、ある女性から、死んだ父親が書いた五つの「結末のない物語(リドルストーリー)」を探して欲しい、という依頼を受ける。調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことがわかり――。五つの物語に秘められた真実とは? 春去りし後の人間の光と陰を描き出す、米澤穂信の新境地。精緻きわまる大人の本格ミステリ。(粗筋紹介より引用)

小説すばる』2008年6月号〜12月号掲載。2009年8月、集英社より単行本刊行。2012年4月、文庫化。



休学中の青年が、女性から父が昔書いた5本のリドル・ストーリーの短編を探す話。途中、そのリドル・ストーリーが挟まれ、父親が過去の未解決事件の最重要容疑者であったことを知り、リドル・ストーリーを探しあてて読むうちに過去の事件の真相を知るという話。リドル・ストーリーが、父親が別に残していた最後の一行を加えることで新しい角度に光を向けた格好になるという設定は巧い。この人はこういう作品も書けるのだと、改めて技巧派だと感じてしまった。過去の事件をロス疑惑っぽい事件にしなくてもとは思ったが。

ただ、これが何とも地味。読んでいて盛り上がりがあるわけでもなく、淡々と話が進んで終わってしまうだけ。これが編集者からのリクエストだったというのだから仕方がない。おそらく、作者の技巧を楽しむ作品なのだろう。それでも、山場のない文章を読ませられるのは、非常に苦痛だった。

主人公も含め、複数の家族の姿を描きたかったはず。私は渋めの作品も嫌いではないのだが、この人の作品はどうも肌に合わないというか。