- 作者: 小杉健治
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1991/04/17
- メディア: 文庫
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1986年6月、廣済堂出版ブルーブックスより書き下ろし刊行。作者の第三長編。1991年4月、集英社より文庫化。
当時、法廷ミステリの旗手として話題になっていた作者の出世作と言ってもいい長編。週刊文春ベストでは第8位、さらにSRの会のベストでも第8位とランキングされている。
「裁判で有罪の判決が出るまでは無罪」と言いながらも、社会的には逮捕された時点で有罪になっているという法の建前と一般社会のずれを書こうとしたこの作品。そしてその目論見は、高いレベルで成功しているといってよい。
兄は本当に無実だったのか。逮捕された時点で有罪と社会的にみなされ、マスコミは周囲の人物へ容赦なく押しかけ、迷惑を顧みず取材を続け、話を捻じ曲げ、世間を扇情していく。妹の秀美も婚約者と別れることとなる。妹の秀美が取った「奇策」は予想の付くものだったが、社長殺しの事件も含め、その真相は意外なもの。できれば裁判やマスコミの後日談を書いてほしかったところだが、現実では同じ問題点が上がっても反省するのは一時だけで、また人権侵害を繰り返すのがマスコミだから、書くだけ無駄だと思ったのかもしれない。
汚職代議士などの弁護も引きうけて高額な報酬を取る替りに、貧しい人々の弁護には自腹を切るという瀬能寿夫は、本書と短編「動機」にしか登場しない。事件資料を見ただけで事件の矛盾を見つけ出すほどの有能な弁護士なので、かえって使いづらかったのかも知れないが、もっと他でも活躍を見てみたかったほどのキャラクターである。
法廷ものの傑作の一つ。日本ミステリ史に残る作品だろう。小杉健治は今の若い人にももっと評価されてもいいと思うのだが。本格ミステリの要素もあるし。