平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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黒川慈雨『珍名ばかりが狙われる 連続殺人鬼ヤマダの息子』(宝島社文庫)

 連続殺人鬼ヤマダの息子に殺された被害者の共通点は「珍名」。大学生・不倫純の叔父が殺された。殺害状況と珍名があいまって、不倫純の一家は世間からいわれのないバッシングを受ける。そんな折、純は珍名専門の判子職人・一(まぶた)と出会い、店に集う珍名の常連客との交流を通して、自分のアイデンティティを見つめはじめる。しかし犯人から新たな殺人予告があり――。純は叔父の死の真相にたどり着けるのか!?(粗筋紹介より引用)
 2021年12月、書下ろし刊行。

 初めて読む作者だが、第17回『このミステリーがすごい!』大賞・隠し玉として2019年に『キラキラネームが多すぎる 元ホスト先生の事件日誌』でデビュー。本作が二作目。
 連続殺人事件が発生。一人目が木乃伊(みいら)義男。二人目が波水流(ぱずる)隆則。二人目の時、ヤマダのむすこと名乗る人物がおかしなまえのやつらをころすなどのメッセージが残されていた。そして三人目が不倫誠次。兄の家に同居する中学以来の引きこもりで、ゲームやアニメにはまっていたことが世間にばれて、不倫家は世間からバッシングを受ける。純は刺青師、珍名専門の判子屋である一京太郎と知り合い、家を出て住み込みでアルバイトをする。ヤマダの息子はさらに殺人を続け、純は事件を追う。
 これでもかとばかりに珍苗字(と書くと失礼なのかもしれないが、めったにない苗字だというのは事実)が出てくるあたりは、逆にユーモア小説なのかと思ってしまったのだが、読み終わってみると意外と色々な社会問題に切り込んでいたことに驚いた。前面に出てくるのは事件被害者ならびに家族へのバッシングなのだが、それ以外にも……ええとそれを書くとネタバレに近くなるからやめておきますが。
 純でも思いつきそうな犯人の正体が、警察やネット上にいる犯罪マニアたちが思いつかないというのは不思議なんだが、そんなことに突っ込むのは野暮か。最後、投げっぱなしな気がしなくもないし、もうちょっと社会の反応を書いてほしかったなとも思うが、楽しく読めた。ベストに選ぶような作品ではないが、短い空き時間を退屈にせずに済ませるには、ちょうどいいかもしれない。