捜査 北九州病院長バラバラ殺人事件 (トクマノベルズ―長篇警官小説)
- 作者: 中村光至
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 1983/11
- メディア: 新書
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(粗筋紹介より引用)
長編小説『氷の庭』が昭和40年に第53回直木賞候補になって以来、中村光至が18年ぶりに書き下ろした作品であり、1983年11月にTOKUMA NOVELSより刊行された。1979年11月4日に発生した、北九州病院長バラバラ殺人事件が基となっている。
作者は福岡県警察本部教養課調査官に勤務していたということも有り、警察組織には非常に詳しい。だからこそ、当時流行っていた刑事ドラマとは異なる、本当の警察組織を書きたかったのだろう。筆者があとがきで「私が描きたかったのは、一人の名刑事でも、一人の有能な指揮者でもない。組織捜査と、歯車のごとく動く群像に他ならない」と書いているとおり、現在の警察の組織捜査を警察官の視点から描いた作品である。
ただそれなら、何も実在の事件を扱う必要はなかったのにと思ってしまうのも事実。実在の事件を題材とすることでそれなりの注目を浴びやすくしようと思ったのかも知れないが、安易と思われてしまう危険性も多い。というか、安易としか言い様がないだろう。それこそ、刑事ドラマに出てきそうな事件を現実の警察組織が扱ったらどうなるか、といった視点で書いた方が、作者の狙いがよりはっきりしたのではないだろうか。主に担当した刑事の視点で各章が書かれているのだが、最後の方で唐突に犯人の一人の視点で書かれているのも違和感がある。共同正犯なのだから、双方の視点で書かないと贔屓になるのではないだろうか。
本格警察小説を書きたいという作者の目論見自体は達成できただろうが、それが読者に伝わったかどうかは微妙。やはり実際の事件を扱うべきではなかったと思える作品である。