平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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伊佐千尋『法廷 弁護士たちの孤独な闘い』(文春文庫)

法廷―弁護士たちの孤独な闘い (文春文庫)

法廷―弁護士たちの孤独な闘い (文春文庫)

昭和3年広島で起きた養母殺しの容疑者山本老は実に五十数年間、無実を訴え続け、現在、再審を請求、“第二の加藤老事件”といわれている。昭和49年千葉で起きた両親殺しの容疑者は“史上稀に見る残忍な凶悪殺人”として死刑を言い渡された。冤罪事件に取り組む弁護士たちの地道で真摯な闘いを描く異色作品。(粗筋紹介より引用)

1986年10月、文藝春秋より単行本刊行。1993年4月、文庫化。



タイトルにある通り、冤罪事件に取り組む弁護士たちの戦いを書いた一冊。確かに弁護士という職業は割に合わないところはある。世間から見れば逮捕された時点で有罪と見られてしまう人物を弁護するため、世間から冷たい視線で見られてしまうことは多い。それが被告の権利を守るためとはいえ、原告側を非難するケースもある。特にインターネットが普及した現代では、匿名による非難が簡単に広がるようになったことから、時にはいわれのない非難を浴びることもある。ただし誰もが首をひねるような弁護も時にあるから、必ずしも弁護士は常に「正義」であるとは限らない。また弁護士という地位を悪用する人物もいることから、弁護士という職業そのものに疑惑の視線を浴びせる人もいるだろう。

本書はいずれも冤罪に取り組む弁護士を取り上げている。これについても、必ずしも「正義」の側にあると見られているわけではない。時にはなぜ再審するのか、なぜ無罪を訴えるのかと非難する者もいるだろう。最後に挙げられた市原両親殺人事件にしても状況は被告側に不利であり、弁護にしてもなぜこんな細かいところばかり訴えるのだろうと疑問を抱く人もいるに違いない。

本書では依頼人の不利益に動く弁護士についても書かれている。必ずしもすべての弁護人が正義だと言っているわけではない。ただし、正義のため、真実のために動こうとしている弁護士がいることだけは頭に入れておいてもいい。

作者は陪審制を入れるべき、裁判官だけによる判決は避けるべきと主張している。裁判員制度が導入された今、作者はどう思うだろうか。

収録されているのは山本老事件、那覇市傷害致死冤罪事件、沖縄市の学生バイク事故死に伴う罪なすりつけ及び警察癒着事件、市原両親殺人事件の4件である。