エリザベス・デイリイは1940年処女作"Unexpected Night"(後に『予期せぬ夜』のタイトルで邦訳刊行)をもって登場したアメリカの新進女流作家である。それ以後、デイリイは一年に平均二冊の割合で作品を発表しているのだが、その度に批評家や読者の好評を博し、現在では第一級の探偵作家になっている。彼女の作品の大部分はニューヨークを背景としており、動きにむだがなく、しかも未解決なあいまいさを残さず、一分のすきもないように組立てられている点が読者に喜ばれているようである。
本書『二巻の殺人』はデイリイの第三作に当り、百年前に失踪した少女が再びそれらしい姿を表すという発端は、類型がいくつかあって必ずしも新奇ではないが、これにバイロン全集をからませて、古書狂のヘンリー・ガーマジを探偵として引っぱり出す処が面白い。登場人物の性格の組合せに神経を使って、環境と性格から犯人が生まれてくるという書き方はどうやらクリスティー女史の手法に似ている。しかしヒューマニスティックな見方をしているため、どの人物も憎めない一面を持っているのと、明快な解決ぶりで、後味がサッパリして快い。もっと他の作品も読んでみたいと思わせる作品であり、作者である。(訳者紹介より引用)
1941年、アメリカで発表。1955年2月、刊行。1998年10月、再版。
エリザベス・デイリイはアメリカの作家で、ブリンマー大学卒業後、コロンビア大学で修士号を取得。16歳で詩や散文を発表していたとのこと。大学で講師を勤め、『予期せぬ夜』でデビューしたのは62歳の時。作品16冊全て、古書狂の素人探偵であるヘンリー・ガーマジ探偵が探偵役である。ガーマジは1904年生まれとのことなので、1940年6月が舞台の本書では36歳。後に、本書に出てくるクララ・ドーソンと結婚するそうだ。
マルコ・ペイジ『古書殺人事件』と並び、古書ミステリマニアが探し求める作品と言われていた一冊。1998年のハヤカワ・ミステリ発刊四十五周年復刊アンケートで第10位に選ばれた作品である。「二巻」とはロード・バイロンの詩集の全集全十巻の第二巻のことを指している。
個人的には名ばかりが先行していたイメージがあったのだが、読んでみると訳文が古いから、追いつくのがちょっと大変。しかしそれさえ慣れてしまえば、文章に癖が無いし、意外とすんなり頭には入ってくる。ただ、それほど盛り上がることもなく、殺人事件の謎をガーマジが突き止めてしまったという印象しかないな。当時の流行小説、というような感じがする。
ということで、当時の復刊フェアで買ったまま放置していたけれど、読めたからよかった、という一冊。ごめん、それ以上の感想が出てこない。