平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

クレイトン・ロースン『柩のない死体』(創元推理文庫)

棺のない死体 (創元推理文庫)

棺のない死体 (創元推理文庫)

「世に不可能なるものなし」のスローガンを掲げる大奇術師兼探偵のグレート・マリーニが手掛けた最大の難事件。巨大な権力を有する実業家が殺され、マリーニの親友に、その容疑が降りかかった。なんど死んでも生き返るという「死なない男」の不気味な存在、白魔術と黒魔術、生霊と死霊の跳梁など、超現実の世界と密室殺人の謎が複雑に絡み合って、目に見えぬ魔手はマリーニに迫ってくる。カーと並ぶ密室本格派の巨匠が、二重三重のトリックを考案した謎解き推理長編!(粗筋紹介より引用)

ロースンの第四長編、1942年作品。1959年に世界推理小説全集54として翻訳。1961年文庫化。長らく絶版だったが、1994年に再版。



復刊フェアで購入した一冊。ロースン作品を読むのは『帽子から飛び出した死』以来20数年ぶり。というか、ロースン作品はこれしか読んだことがなかった。カーと並ぶ密室本格派といわれながらも、日本で読める作品はごく僅かだったと記憶している。『帽子から飛び出した死』については例の密室トリックしか覚えておらず、つまらなかったという印象しかない。

ということで久しぶりに読んだロースンだが、面白かったとはとうてい言えなかった。容疑が降りかかった新聞記者のロス・ハートは、これまでの作品の語り手である。粗筋紹介にもあるとおり、実際の密室殺人に超現実の謎までが降りかかってくるのだが、それが逆にドタバタな印象ばかりを与えており、読んでいても腰が落ち着かない。カーの作風を下手に取り入れたかのようだ。そもそもマリーニの一人称って「俺」だったっけ? 自分のイメージからは「私」なのだが。

あちらこちら走り回ってばかりいるうちに気がついたら推理が繰り広げられ、事件は解決するのだが、謎が解けた、という爽快感はまったく得られず。とりあえず絶版作品を読むことができてよかった、以上の感想はなし。ロースンの長編作品はこれが最後らしいが、結局長編を書くだけの筆力がなかったんじゃないの? 言い過ぎかもしれないが。