平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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アントニイ・バークリー『第二の銃声』(国書刊行会 世界探偵小説全集2)

第二の銃声 世界探偵小説全集 2

第二の銃声 世界探偵小説全集 2

探偵作家ジョン・ヒルヤードの邸で作家たちを集めて行われた殺人劇の最中、被害者役の人物が本物の死体となって発見された。殺されたのは放蕩な生活で知られる名うてのプレイボーイ、パーティには彼の死を願う人物がそろっていた。事件の状況から窮地に立たされたピンカートン氏は、その嫌疑をはらすため友人の探偵シェリンガムに助けを求めた。錯綜する証言と二発の銃声の謎、二転三転する論証の末にシェリンガムがたどりついた驚くべき真相とは? 緻密な論理性、巧みな人物描写とブロットの妙。本格ミステリの可能性を追求しつづけたバークリーの黄金時代を代表する傑作。(粗筋紹介より引用)

1930年、発表。1994年11月、翻訳、発売。



プロローグで新聞記事と、デヴォンシャー警察のハンコック警視の報告書が書かれ、シリル・ピンカートンがシェリンガムを呼んだ旨が書かれている。その同封書類として、ピンカートンの草稿の写しが送られていたことが分かる。そして「ピンカートン氏の草稿」が挟まれ、最後にエピローグとなる構成になっている。

 事件自体は地味だし、会話が中心でサスペンス要素があるわけでもなし。それでもシェリンガムが到着してからの展開は、シェリンガムならではの引っ掻き回しがいい意味で事件と小説そのものを動かしている。まあ、それでも退屈に思う人がいるかもしれない。それは否定しない。個人的にはピンカートンと、殺害されたエリック・スコット-デイヴィスの従妹であるアーモレルとの恋愛模様が結構楽しめたが。

本書のすごいところはエピローグにある。ここにきて、初めてバークリーが某作品(タイトルを書くとバレバレなので……)に挑戦したことが分かるのだ。色々な意味で、これはすごい。よくぞこんなことを考えた、と思うとともに、さすが皮肉屋のバークリー、とも思ってしまった。某作品の最大の不満点を、見事に解消している。

ただなあ、本格ミステリに興味のない人から見たら、何ナノこれ、と思う人が居そう。いや、間違いなく居るはず。ある意味、バカバカしい。しかしこれが本格ミステリの面白さだろう。こういうバカバカしさにまじめに取り組み、小説を仕上げてしまうのが本格ミステリの書き手なのだ。

本格ミステリファンならぜひ読んでほしい作品。とはいえ、大抵のファンならもう手に取っているだろうが。