平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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マーガレット・ミラー『狙った獣』(創元推理文庫)

狙った獣 (創元推理文庫)

狙った獣 (創元推理文庫)

ヘレンは恐ろしくなって、台から電話を払い落とした。友人だというその女の声は、はじめ静かで、ほほえんでいた。だが、話すほどに悪意を剥き出しにし、最後には、手元の水晶玉に手足がちぎれ血みどろになったあんたの姿が映っていると、予言めいた台詞を吐いたのだった。たちの悪いジョーク。そう思い直そうとしても不安を断ち切れないヘレンは、考えたあげく、亡父の優秀な相談役だった老投資コンサルタントに助言を求めることにしたが……。鬼才の代表的傑作、ついに登場。アメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞を受賞した衝撃のサスペンス!(粗筋紹介より引用)

1955年発表、1956年ハヤカワ・ポケット・ミステリの一冊として翻訳。本書は改変された1978年版を底本とした新訳。



戦後のアメリカ女流サスペンス作家を代表するマーガレット・ミラーの代表作。当時住んでいた場所の近くにあった本屋のカバーがかかっていたから、新刊で買ったものをダンボールに入れていたんだな、多分。

精神異常者と思われる人物が巻き起こすサスペンス(当時はこういう作品をニューロティック・サスペンスと呼んでいたらしい)かつ、ミステリらしい捻りのきいた作品であるが、これが50年以上も前に出ていたということに驚く。感情を抑えた筆致から醸し出される恐怖は、現代でも充分に通じる。精神異常だけではなく、殺人の謎と合理的な解決を少ないページ数で破綻なく絡めるところは、まさに傑作と呼ぶにふさわしい仕上がりである。

解説で宮脇孝雄が、夫であるロス・マクドナルドとどちらが美文であるかを語っており、また訳者の雨沢泰が本書の改変とそれに纏わる翻訳のエピソードを語っている。解説者と訳者が、このような視点で作品を語ってくれるのはとても嬉しい。くだらない自分語りの解説やうそ偽りだらけの翻訳者のあとがき(つまらない作品でも傑作とだけ書いておしまいみたいなもの)は読みたくない。
今頃手に取ってみたが、素直に楽しむことができた。よかった、よかった。
(感想がかなり投げやりになっているように見えるのは、でかい仕事を控えているせいだな)