平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジェイムズ・マクルーア『スティーム・ピッグ』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 先端をとがらせた自転車のスポークを静かに相手の脊椎に差し込む。そっと抜き出せば、残されるのは並みの医者なら見逃してしまう、ほんの小さな傷痕だけ――バンツー族の刺客の見事な手口だ。殺すのが目的ではない。半身不随にして、相手に一生自分のしたことを後悔させるためだった。だが、今度はちがっていた。テレサ・ル・ルーという金髪の美しい娘にはそれが致命傷だった。葬儀屋の手ちがいさえなければ、心臓麻痺としてそのまま埋葬されるはずだった娘……。
 トレッカースブルグ警察殺人課のクレイマー警部補にとっては、きわめて危険な事件だった。南アフリカ共和国内で原住民が白人を殺したとなれば、ただ事ではない。もたもたしていれば警察が袋叩きにあうのは眼に見えている。白人のピアノ教師で独り暮し――被害者の身元はそれだけしかわからず、死体の引き取り手もいない。クレイマーは、バンツー族出身の部下ゾンディ刑事に命じ以前同じ手口で半身不随にされたシュー・シューという男の行方を追わせた。だが、必死の捜査が見出したのはシュー・シューの惨殺死体と、彼がよく口にしていた、“スティーム・ピッグ”という謎の言葉だけだった!
 人種差別の厚い壁のなかに誕生した、白人と黒人の刑事コンビ。イギリス・ミステリ界の期待を担う新鋭作家が、力強い筆致で描く、英国推理作家協会賞受賞作。(粗筋紹介より引用)
 1971年、イギリスで発表。1971年度CWA(英国推理作家協会)最優秀長編賞(ゴールド・ダガー)受賞。1977年9月、邦訳刊行。

 

 作者は南アフリカ共和国ヨハネスブルグで生まれ育ったイギリス系白人。アパルトヘイトに同調できず、1965年にイギリスにわたり、「デイリー・メイル」「オクスフォード・タイムズ」等の編集に従事。1971年、31歳の時に本作でデビュー。
 アパルトヘイトがまだ続いていた当時の南アフリカ共和国における警察小説。白人のトロンプ・クレイマー警部補とパンツー族出身のミッキー・ゾンディ刑事がコンビを組んで、事件に当たる。
 南アフリカ共和国の警察小説を読むのが初めてであり、南ア共和国の当時の内情が読んでいて面白い。まだアパルトヘイトが当たり前にあった時代であり、そういう国で白人と黒人(言い方悪いけれど、作品に合わせます)がペアを組んで、お互いに軽口を叩きながらも事件に向かっていく構図は面白い。ただ、素材の面白さに寄りかかっていることは否めない。犯罪の部分は、南アフリカ共和国ならではという部分を除くと、面白さに興奮するほどのものではないのが残念。
 本作が好評を得て、以後シリーズ化されている。南アフリカ共和国の歴史とやっぱり絡んでいくのかな。気になるところではあった。