平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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横溝正史『横溝正史少年小説コレクション7 南海囚人塔』(柏書房)

 横溝正史の少年少女向けミステリをオリジナルのテキストで集大成した「横溝正史少年小説コレクション 全7巻」、最終巻の本書は、戦前から戦後にかけてのノンシリーズ作品を収録。
 絶海の孤島を舞台に繰り広げられる謎と怪奇に満ちた冒険譚『南海囚人塔』は、1931年(昭和6)に発表されたものの掲載誌の散逸でこれまで一度も刊行されることなく幻の存在とされてきた作品で、実に90年の時を経ての初書籍化となる。
 他に、太平洋戦争前夜の緊迫した国際情勢を色濃く反映した伝奇海洋冒険譚として異彩を放つ『南海の太陽児』、海野十三急逝を受けて書き継ぎ完成させた『少年探偵長』の2長篇に、「黒薔薇荘の秘密」「謎の五十銭銀貨」「悪魔の画像」「あかずの間」の4短篇、といずれもストーリーテラーとしての面目躍如たる傑作群。
 巻末には横溝正史夫人・孝子氏と長男・亮一氏、ミステリ作家・山村正夫氏による貴重な座談「横溝正史の思い出を語る」、本選集編者・日下三蔵氏による「横溝問答」を収載、付録も充実のシリーズ最終巻!(粗筋紹介より引用)
 2022年1月、刊行。

 

 戦後は初めてオリジナル版がまとめられた『南海の太陽児』、雑誌連載後初めて書籍化された『南海囚人塔』は、当時の時代ならではの少年向け冒険小説。横溝もこういう作品を描いていたんだという意味では興味深い。『南海の太陽児』はやや投げっぱなしな終わり方が気にかかるし、『南海囚人塔』も展開が急すぎるところはあるものの、どちらも令和の時代に読めることに感謝するところだろう。『南海の太陽児』の冒頭が『迷宮の扉』と同じなことにも驚いた。
 「黒薔薇荘の秘密」「謎の五十銭銀貨」「悪魔の画像」は戦後の少年誌に書かれたノンシリーズの短編。横溝って、残された遺産ものが好きなんだなといまさらながら思ってしまう。「開かずの間」は少女誌に書かれたノンシリーズ短編。
 急死した海野十三の連載を引き継いだ『少年探偵長』は、海野十三全集で読んでいるはずなのだが、全然覚えていない。全集って意外と記憶に残らないのか、単に私が忘れっぽいのか。まあそう思うから、メモを残そうと思うようになったのだが。
 「横溝正史の思い出を語る」は『姿なき怪人』『風船魔人・黄金魔人』(角川文庫)に載っていた対談。これは貴重だから、再録されたのはとてもうれしい。
 これで全7巻が完結。できれば全作品を収録してほしかったところだが、こればかりは仕方がない。角川文庫で改変されていたものが、オリジナルで出版されたことに素直に感謝したい。
 しかし、これで横溝本は終わりかな。さすがに金田一耕助を新たにまとめるのは難しいだろう。ノンシリーズ長編ぐらいか、残されているのは。『呪いの塔』とか『塙侯爵一家』とか。これらはこれらで、結構味があるのだが。