平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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浅倉秋成『六人の嘘つきな大学生』(角川文庫)

 成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。(粗筋紹介より引用)
 2021年3月、KADOKAWAより単行本刊行。2023年6月、文庫化。

 映画化されるとのことで購入。いや、映画は見に行かないけれど。
 話題になっていたので簡単なストーリーは目にしていたが、こうやって読むと絶賛されたのもわかる。
 まずは過去パートの「Employment examination ─就職試験─」。就職候補6人がグループディスカッションで1人だけ決めるなんて、今だったら間違いなく炎上しそうな試験方法だ。途中で当時の人事部長や学生のインタビューが差し込まれ、彼らにとっては結果がわかっているが、読者にとっては結果がわかっていないので、ある意味思わせぶりな内容になっており、読者を引き込む方法としてはうまい。そして六通の封筒に隠されていた六人の「嘘」と「罪」。一体だれがこんなものを準備したのか。
 そして八年後の現在パートである「And then ─それから─」。就職した人物がとある出来事をきっかけに、過去の真相を改めて求めていく。
 会話文が多く、スピーディーで展開が早い。そして就職選考という読者の多くが通ってきた道であり、さらに心の中にくすぶっていただろう違和感を抉り出す心情がよく描かれている。なるほどこれは共感するわ、と思いながら読んでいくうちに、今度は青春時代の郷愁と痛みを感じさせる内容に胸を打つ。それでいて、散りばめるだけ散りばめられた伏線が最後になって回収されていく、ミステリの醍醐味を味わせてくれるのだから、これは凄いというしかない。
 これは売れるのもよくわかるわ、面白いもの。この完成度の高さと、胸を打つ展開を両立させたのは大したもの。青春ミステリの傑作でした。