平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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横溝正史『横溝正史探偵小説選I』(論創ミステリ叢書)

2008年8月刊行。収録作品は以下。まずは創作・翻案編。

「霧の夜の出来事」「ルパン大盗伝」「海底水晶宮」「恐ろしきエイプリル・フール」「化学教室の怪火」「卵と結婚」「十二時前後」「橋場仙吉の結婚」「恐ろしき馬券」「悲しき暗号」「宝玉的道話集」「お尻を叩く話」「首を抜く話」「博士昇天」「足の裏 共犯野原達男の告白」「五つの踊子」「妻は売れッ子 甘辛夫婦喧嘩抄」「黄色い手袋」「五万円の万年筆」「ドラ吉の新商売」「コント・むつごと集」「陽気な夢遊病者」「堀見先生の推理」「榧の木の恐怖」

評論・随筆・読物編は以下。

「ビーストンの面白さ」「創作集『心理試験』」「幽霊屋敷」「私の死ぬる日」「ビーストンに現れる探偵」「探偵小説講座」「処女作云々」「いろいろ」「探偵映画蝙蝠を観る」「無題」「酔中語」「「ユリエ殺し」の記」「恋愛曲線を称ふ」「銀座小景 或は、貧しきクリスマス・プレゼント」「散歩の事から」「不吉な数」「陰獣縁起」「トーキーと探偵物」「思ひ出の断片」「グリーンの作品」「フアーガス・ヒユーム」「ビーステンドサム」「パリのなぞ」「くすり屋の抽斗から」「探偵・猟奇・ナンセンス」「探偵小説講座」「光る石」「クロスワード式探偵小説」「彼の精神力」「現実派探偵小説」「浮気な妻故」「東京パンの思い出」「カミ礼讃!」「探偵小説壇の展望」「江戸川乱歩へ」「槿槿先生夢物語」「探偵小説の簡便化」「クレオパトラと蚤」「続槿槿先生夢物語」「私の探偵小説論」「上諏訪三界」「アンケートほか」



横溝正史の単行本未収録作品を集めた作品・随筆集。全3巻のうち第1巻は主に戦前の作品を集めている。

2006年に旧宅で発見された「霧の夜の出来事」が目玉と言うことだろう。多くがユーモアやナンセンスな作品に仕上がっているのは、この頃の横溝の作風ならではと言ったところである。「ルパン大盗伝」「海底水晶宮」はルパンの翻案もの。「水晶の栓」「奇岩城」が下敷きとはなっているが設定を除くとほぼ別物で、この時代ならではの大胆な料理方法ではあった。残りは掌編が中心であり、今まで単行本に収録されなかったのも仕方が無いと納得するしかないものばかりである。それでも「首を抜く話」は乱歩「ぺてん師と空気男」の1エピソードと同じネタを扱っており、興味深い。「妻は売れッ子―甘辛夫婦喧嘩抄」は「夫婦書簡文」の改稿バージョン。

評論・随筆・読物編はそれほど見るべきものはなかったが、ビーストン礼讃が多いのは、当時の横溝の趣味が見えて面白い。乱歩が『悪霊』の連載を休載し続けることに対する怒りの文書はなかなか興味深かった。

横溝ファンなら中身はどうあれ、読んだことがない作品ばかりなので思わず手を出すことになるのだろう(まあ、自分もその一人だったが)。そりゃ部数が出ないだろうからこの値段も仕方が無いだろうが、それでも高いなあとは感じてしまった。解説はなかなかよかったが。