- 作者: 後藤均
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/03/01
- メディア: 文庫
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2002年、第12回鮎川哲也賞受賞。応募時ペンネーム富井多恵夫、応募時タイトル『スクリプトリウムの迷宮』。加筆訂正の上、2002年10月、刊行。2005年2月、文庫化。
大学教授で推理作家の主人公、富井がヨーロッパへ出張途中、チューリッヒで星野泰夫の作品に出会う。1年に1回、モンセギュールが陥落し、棄教を拒否した二百人の信者が山のふもとで火刑に処せられた3月16日だけ飾られるというその絵には、日本人が来たら渡してほしいという書簡があった。その書簡の中には、星野が戦後に遭遇した殺人事件について書かれていた「手記・弌」「手記・弐」があり、そして当時犯人当てが行われた小説「イギリス靴の謎」が挟まっていた。
これだけの多重構造、書き方がまずいと独りよがりの自己満足に終わってしまうことが多いのだが、鮎川賞を受賞したということだけあって、さすがにそのような愚は犯していない……と言いたいところだが。構造自体は非情に魅力あふれる設定だ。中世ヨーロッパの歴史が絡み合う内容は知識を要するところであり、日本人が推理するには不向きな気もするが、それは教養と思いながら読めばいい。さて、問題は、肝心の中身が伴っていないところだ。作中作中作になる「イギリス靴の謎」が非常につまらない。これは島田荘司がいう通り、ここが傑作になると、枠の外が生きる展開になるだろう。さらに星野の世界で起きた殺人事件の方も今一つで、解決があまりにも安易。そして最大の問題点は、最後に大きな謎が何も解かれず、そのまま「続く」になっていること。読了後、こんな肩透かしを食らわされたのではたまらない。
魅力的なアイディアに、中身が伴っていない典型的な作品。そもそも最初から最後まで僥倖に頼りすぎ。まあ、アイディアのみを評価して鮎川賞受賞となったのかもしれないけれど、個人的に見たら未完成作に等しい出来である。
この作品の続編が、『グーテンベルクの黄昏』ということらしい。さすがに読む気が起きないぞ、これじゃ。