平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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若林正恭『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(文春文庫)

 飛行機の空席は残り1席――芸人として多忙を極める著者は、何かに背中を押されるように一人キューバに旅立った。クラシックカーの排ガス、革命、ヘミングウェイ、青い海。「日本と逆のシステム」を生きる人々に心ほぐされた頃、隠された旅の目的が明らかに――落涙必至のベストセラー紀行文。書下ろし3編収録。(粗筋紹介より引用)
 2017年7月、KADOKAWAより単行本刊行。2018年、第3回斎藤茂太賞受賞。2020年10月、書き下ろし「モンゴル」「アイスランド」「コロナ後の東京」を収録して文庫本刊行。

 

 2000年に春日俊彰とナイスミドルを結成し、後にオードリーと改名。芸人として売れない9年を過ごし、2008年にM-1グランプリで準優勝してから売れっ子芸人となった若林正恭の紀行文。
 「じゃないほう芸人」と一時期言われ、どこか斜に構えながら物事を見て生きてきたというのが若林の印象なのだが、本作品ではやはり視点が独特なところがあるのだなと思わせる。それほど難しい言葉を使っているわけじゃない。だけど、なぜか心に残る言葉を残す。帯にもある「ぼくは今から5日間だけ、灰色の町と無関係になる」。なぜ深く心に突き刺さるのか。テレビの『たりないふたり』シリーズなんかを見ていて思うが、もどかしい様々な思いを抱き、それを少しずつ浄化し、そしてそれ以上の想いを重ねながら生きてきたのだろうと思わせる。新鮮な光景を、今までの光景と照らし合わせ、自らの心に広がる思いと相違点が紡ぎ出され、そして自らの立ち位置を確認する。旅ってこういうことだろうか。
 Creepy Nuts、DJ松永による解説も素晴らしい。『オードリーのオールナイトニッポン』のヘビーリスナーを指すリトルトゥースでもある彼は、若林のラジオに励まされ、若林と自分を照らし合わせることで生きてきた思いを率直に綴っている。
 読んで素直に良かったと思わせる一冊。そして思うのは、若林ってすごいな、ということだ。