平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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アンソニー・ホロヴィッツ『ナイフをひねれば』(創元推理文庫)

 「われわれの契約は、これで終わりだ」 彼が主人公のミステリを書くことに耐えかねて、わたし、作家のアンソニーホロヴィッツは探偵ダニエル・ホーソーンにこう告げた。翌週、ロンドンの劇場でわたしの戯曲『マインドゲーム』の公演が始まる。初日の夜、劇評家の酷評を目にして落胆するわたし。翌朝、その劇評家の死体が発見された。凶器はなんとわたしの短剣。かくして逮捕されたわたしにはわかっていた。自分を救ってくれるのは、あの男だけだと。〈ホーソーンホロヴィッツ〉シリーズの新たな傑作!(粗筋紹介より引用)
 2022年3月、イギリスで発表。2023年9月、邦訳刊行。

 〈ホーソーンホロヴィッツ〉シリーズの四作目。過去や私生活のことを教えてくれないことに不満たらたらのホロヴィッツが、ホーソーンにとうとう絶縁宣言を言い渡す。ところが自分の戯曲を酷評した劇評家ハリエット・スロスビーが殺害される。凶器はホロヴィッツがもらったもの、動機もあるし、アリバイはない。『その裁きは死』でホーソーンにコケにされたカーラ・グランショー警部は、喜び勇んでホロヴィッツを逮捕。証拠不十分でいったんは釈放されたホロヴィッツが縋ったのは、当然ホーソーン。法科学鑑定研究所が、ハリエットの服に残されていた毛髪のDNA鑑定を行った結果は、ホロヴィッツの物とほぼ完璧に一致。しかしホーソーンの隣人ケヴィンが研究所のコンピュータにハッキングし、障害を起こさせたので、最大48時間の猶予ができた。ホーソーンホロヴィッツは関係者を尋ねまわり、事件の真相を探る。なお、戯曲『マインドゲーム』は実際にホロヴィッツが書いて、上演されたものである。
 先に結論から書いてしまうと、面白く読むことはできた。ただそれは、シリーズキャラクターのやり取りの部分。いつも不満たらたらのホロヴィッツと、それをいなすホーソーン。そして事件(作品)を重ねるごとに、少しずつ明らかになっていくホーソーンの過去。シリーズのファンならたまらないであろう。
 ただ、事件の方はさして面白くない。結局被害者の関係者に尋ねまわり、動機と機会を持つ者を探し出すだけの話である。まあ、ちゃんと読んでいれば犯人には辿り着くので、「犯人当て」ミステリとしては間違っていない。ただ、過去の作品を知っている身としては、こんなのでお茶を濁してほしくない、というのが本当のところ。
 ということで、本作品の面白さは、シリーズキャラクターのやり取り。そこに尽きる。過去三作を読んでいない読者はいないだろうから、これはこれでいいのかもしれないが、こういうのが続くと読者は離れていっちゃうぞ。次作はもう少し力を入れた作品を読みたい。2024年4月に本国で出版されるから、邦訳はその翌年か。それまで待つか。