平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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凪良ゆう『流浪の月』(東京創元社)

【2020年本屋大賞 大賞受賞作】流浪の月

【2020年本屋大賞 大賞受賞作】流浪の月

  • 作者:凪良 ゆう
  • 発売日: 2019/08/29
  • メディア: 単行本
 

 あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。(粗筋紹介より引用)
 2019年8月、東京創元社より書き下ろし刊行。2020年、第17回本屋大賞受賞。

 

 家内更紗は9歳の時、大好きな父親が病死し、自由奔放な母親は新しい恋人と蒸発した。更紗は伯母の家に引き取られるがなじめず、一人息子で中学二年生の孝弘は毎晩体を撫でまわして悪戯をする。学校帰りの雨の日、公園で更紗は19歳、大学1年生の佐伯文に声を掛けられ、文のマンションに着いていき、そのまま住み着く。世間では更紗が行方不明になった騒ぎ出す。2か月後、文と動物園に行くも更紗は発見され、文は逮捕された。更紗は叔父伯母夫婦の家に戻される。夜中、忍び込んできた孝弘を、更紗は酒瓶で殴りけがを負わす。更紗は児童養護施設に行くこととなった。そして15年後、常に「誘拐されたかわいそうな少女」の烙印を押されてきた更紗は、文と再会する。

 

 本屋大賞にはほとんど興味がないのだが、今回は東京創元社から出版された作品が受賞した、ということで購入してみた。作者は2008年デビューでBL小説を精力的に書き続けてきたとのこと。全然知らなかったのだが、BL小説を書いていたということは、結構内面の細かいところまで描ける作家なのではないかと期待してみたのだが、大当たりだった。
 簡単に言っちゃうと、ロリコンの大学生のところに小学生が自ら行って自宅で一緒に過ごすものの誘拐として扱われ、一度は事件が解決するものも、15年後に二人が再会する話。もちろん中身はそんな単純なものではなく、二人を取り巻く様々な人物の描写が素晴らしい。なぜ世間というものはこうもお節介なのだろうか。勝手にレッテルを貼るのだろうか。なぜ人はこうも自分勝手に都合よく正義を振り回すのだろうか。なぜ自分の考えが及ばない行動を、誰にも迷惑をかけていないのに排除するのだろうか。様々な思いが交錯し、閉じられた平和な世界が周りからの干渉を受け、歪みが生じてくる。
 あまりにも切ない恋物語……恋なんだろうけれど、「恋」って言っていいのかな。人を好きになることって、どういうことなんだろうと考えさせられる作品。これはやはり、BL小説という世間一般から見たら異端な世界を書き続けたきた作者だからかける作品のような気もするけれど、こういう決めつけ自体がよくないことだとも思ってしまう。うーん、下手にカテゴライズしてはいけない作品、という気がしてしまう。人の心を揺さぶる作品、と言えばいいのだろうか。
 とにかく面白い作品だった。人に勧めたくなるような一冊。そして語り合いたくなる一冊である。