平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス』(角川ホラー文庫)

ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)

ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)

八神森司は、幽霊なんて見たくもないのに、「視えてしまう」体質の大学生。片思いの美少女こよみのために、いやいやながらオカルト研究会に入ることに。ある日、オカ研に悩める男が現れた。その悩みとは、「部屋の壁に浮き出た女の顔の染みが、引っ越しても追ってくる」というもので……。次々もたらされる怪奇現象のお悩みに、個性的なオカ研メンバーが大活躍。第19回日本ホラー小説大賞・読者賞受賞の青春オカルトミステリ。 (粗筋紹介より引用)

2012年、日本ホラー小説大賞読者賞受賞。同年10月、角川ホラー文庫より刊行。



作者は2012年、本作でデビュー。読者賞受賞後、「赤と白」で第25回小説すばる新人賞も受賞している。

本作品はまさかの連作短編集。「プロローグ」「壁にいる顔」「ホワイトノイズ」「南向き3LDK幽霊付き」「雑踏の背中」「秋の夜長とウイジャ盤」「エピローグ」を収録。
一浪して大学に入った八神森司と、高校時代の後輩で大学では同級生となった片想いの相手である灘こよみが中心。幽霊が視える体質でへたり草食系の八神は、こよみがいるオカルト研究会に入部する。他にいるのは部長で大学四年の黒沼。彼を本家と呼び、分家筋で彼を守る立場にある黒沼泉水、兄貴肌の先輩、三田村藍。こよみは美少女だが、偏頭痛持ちで近視なため、目つきは鋭く眉間にしわを寄せていることから、近づこうとする男は居なかった。

大学の研究会が中心で、主人公は情けない草食系。片想いの相手は同じ研究会で、しかも美少女。ライトノベルの設定と言われても仕方が無い。おまけに会話をしてから2年、大学に入ってから半年経ってやっとメールを交わす。なんてどこまでへたれなんだ、この主人公は。

ありがちな設定で、しかも内容は研究会に持ち込まれる事件をいつのまにか解決しているだけ。その解決も特に超能力や呪文などを使うというわけではなく、ホラー要素はかなり薄い。言ってしまえば、何も怖くはない。今までのホラー大賞とは全く傾向の違う作品。よく応募する気になったな、と感心してしまうが、中身が面白いかどうかと言われると話は別。ホラー要素はほとんど無いし、ミステリ要素もあまりない。結局、キャンパスライフにおける草食系男子の片想いが成立するかどうか、というライトノベル風味恋愛小説であり、ホラーはあくまで味付けに過ぎない。それを面白がるかどうかは、読む人によって異なるだろう。少なくとも、今までのホラー大賞受賞作のような小説を求めている読者からしたら、期待を裏切られるに違いない。

逆に言うと、こういう小説が好みな読者を最初からターゲットにしていたとしたならば、作者は相当計算している。いかにも続編を作りやすそうな作りにしており、その狙いは当たっていつの間にか人気シリーズとなっている。2016年には映画化もされる。少なくとも、量産の利くタイプなのだろう。

ただなあ、イラストがヤマウチシズで、物語とマッチしたから売れたんじゃないかという気もする。イラストが別の人だったら、ここまで売れなかったに違いない。