平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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田辺青蛙『生き屏風』(角川ホラー文庫)

生き屏風 (角川ホラー文庫)

生き屏風 (角川ホラー文庫)

村はずれで暮らす妖鬼の皐月に、奇妙な依頼が持ち込まれた。病で死んだ酒屋の奥方の霊が屏風に宿り、夏になると屏風が喋るのだという。屏風の奥方はわがままで、家中が手を焼いている。そこで皐月に屏風の話相手をしてほしいというのだ。嫌々ながら出かけた皐月だが、次第に屏風の奥方と打ち解けるようになっていき――。しみじみと心に染みる、不思議な魅力の幻妖小説。第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。(粗筋紹介より引用)

2008年、「生き屏風」で第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞。皐月シリーズ「猫雪」「狐妖の宴」を加え、2008年10月刊行。



作者は2006年、「薫糖」で第4回ビーケーワン怪談大賞佳作受賞するなどの活躍がある。過去にどういう作品を書いていたのかは知らないが、本作は妖怪たちが出てくる「昔話」である。主人公は、県境で里の守り神として暮らしている妖鬼の皐月。とはいえ第1話はまだしも、残り2話については狂言廻しに過ぎない。話の中心となっているのは、「生き屏風」なら屏風に宿った霊の奥方であるし、「猫雪」なら楽隠居の次郎と猫であり、「狐妖の宴」なら惚れ薬を作ってくれと頼む娘と狐妖と皐月の前任者である猫先生だ。

内容としては、いずれも妖の者が登場するとはいえ、ほのぼのとする「昔話」である。その短さも含め、お伽噺に近い味わいがある。はっきり言ってしまえば、全く怖くない。それでも短編賞を受賞させてしまうのだから、選ぶ方も懐が深いというか。ただ、ホラー小説大賞というくくりを外してみてみる分には、結構おもしろい作品である。これでもう少し描写が巧いと、もっと味わい深くなるのだが。