平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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森晶麿『黒猫の遊歩あるいは美学講義』(早川書房)

黒猫の遊歩あるいは美学講義

黒猫の遊歩あるいは美学講義

  • 作者:森 晶麿
  • 発売日: 2011/10/21
  • メディア: 単行本
 

  でたらめな地図に隠された意味、しゃべる壁に隔てられた青年、川に振りかけられた香水、現れた住職と失踪した研究者、頭蓋骨を探す映画監督、楽器なしで奏でられる音楽。日常のなかにふと顔をのぞかせる、幻想と現実が交差する瞬間。美学・芸術学を専門とする若き大学教授、通称「黒猫」は、美学理論の講義を通して、その謎を解き明かしてゆく。(粗筋紹介より引用)
 2011年、第1回アガサ・クリスティー賞受賞。加筆のうえ、2011年10月、刊行。

 

 「第一話 月まで」「第二話 壁と模倣」「第三話 水のレトリック」「第四話 秘すれば花」「第五話 頭蓋骨のなかで」「第六話 月と王様」の六編を収録。探偵役はパリから帰ってきたばかりの、24歳で教授職に就いた天才の「黒猫」。ワトソン役は大学時代からの知り合いで同い年、今はポオを研究している博士課程一年目の「付き人」。話のいずれもがポオの作品に絡んでくる。
 美学理論を駆使する長身美形の天才が「黒猫」なのだが、描写に乏しく、どんな人物なのだかさっぱり浮かんでこない。相棒である「付き人」の女性についても同様。まあ、表紙のイラストでだいぶ助かっている気がする。いわゆる「日常の謎」もので、謎そのものが小粒。美学講義と称して作者の文学論や美学理論が押し付けられるところはちょっと閉口した。ただそれを除くと、人間ドラマとしてはわりとうまくまとまっていたと思う。お約束としか思えないような探偵役とワトソン役のほのかなロマンスも、続編を望むあざとさは見えるものの、内容としては悪くない。
 軽めの作品で、クリスティーとは合わない気もするが、それなりに面白く読むことはできた。予想通りシリーズ化されているようだが、結末だけ教えてほしい。