平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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佐木隆三『一・二審死刑、残る疑問―別府三億円保険金殺人事件』(徳間書店)

本書は高額保険金搾取殺人事件の嚆矢であり、劇場型犯罪の走りとも言われる別府三億円保険金殺人事件について描かれている。

佐木隆三が『問題小説』1978年9月号に「三億円のダイビング」(『事件百景』収録)を執筆し、その後朝日新聞1980年3月28日西日本版夕刊に載っていた佐木の事件談話を見て、交流が始まった。本書は『問題小説』1981年8月号から82年7月号まで連載された「別府三億円保険金殺人事件」を基として、大幅に加筆したものである。控訴審初公判で始まり、事件の概要、福岡高裁における公判の状況、そして判決までを法廷ドキュメント風に書いている。

本事件は三億円という高額な保険金もさることながら、犯人とされた荒木虎美という人物のキャラクターが個性的すぎて有名である。その強すぎるほどの自尊心は、本書においても十分に発揮されている。とはいえ、佐木はあくまで取材者として書いており、検察、被告のどちらかに荷担するという書き方ではない。

事件そのものも衝撃的だったが、裁判でも有罪か無罪かについて法廷で火花が散ったこともあり、一つ間違えば退屈なものになりかねない法廷ドキュメントでも緊迫感溢れた仕上がりとなっている。本書のタイトルにあるとおり、控訴審判決や鑑定結果に対する疑問点についても、多くのページが割かれている。これをどう思うかは、読者の仕事だろう。

個人的には、荒木虎美は犯人だと思っている。だが、あれだけ荒木が己を主張しなければ、裁判で証人を罵倒するなどの行為がなければ、状況証拠しか無かったことから、無罪判決もあり得たのではないかとも思っている。この本を読む限りであるが、確かに判決に対する疑問点は多い。それがどこにあるかは、本書を読んでの楽しみとしていただきたい。

荒木虎美は上告するも、ガンにかかり、1989年1月13日に61歳で死亡した。