平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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アンソニー・ホロヴィッツ『殺しへのライン』(創元推理文庫)

『メインテーマは殺人』の刊行まであと3ヵ月。プロモーションとして、探偵ダニエル・ホーソーンとわたし、作家のアンソニーホロヴィッツは、初めて開催される文芸フェスに参加するため、チャンネル諸島オルダニー島を訪れた。どことなく不穏な雰囲気が漂っていたところ、文芸フェスの関係者のひとりが死体で発見される。椅子に手足をテープで固定されていたが、なぜか右手だけは自由なままで……。傑作『メインテーマは殺人』『その裁きは死』に続く、<ホーソーンホロヴィッツ>シリーズ最新刊!(粗筋紹介より引用)
 2021年、イギリスで刊行。2022年9月、邦訳刊行。

 

 <ホーソーンホロヴィッツ>シリーズ三作目。戦時中はナチスに占領され、オンライン・ギャンブルの世界的な中心地のひとつであるオルダニー島で開催された文芸フェスでの殺人事件。文芸フェスといっても、テレビに出ている料理人、霊能者、島在住の歴史家、児童文学作家、フランスの朗読詩人というよくわからない面子。最もホーソーンホロヴィッツの場合は探偵であるホーソーンが主役で、ホロヴィッツはおまけ。イギリスの文芸フェスってこういうものなの? よくわからない。
 物語はテンポよく進むし、いかにも犯人らしい人物が普通に登場。ホーソーンの切れ味は相変わらずだし、ホロヴィッツの片想い(苦笑)ぶりも相変わらず。ホロヴィッツが危険にさらされなかった点がいつもと違うところか。あれ、これで終わりかと思ったところで始まる謎解きはさすが。伏線回収も見事。
 ただ過去の二作品と比べると、物語の起伏がやや平坦。あまりにもスムーズに結末まで進んでしまった。ホーソーンの過去が少しずつ明らかになっていく面白さはシリーズものならではだが、逆にそれがなかったら退屈だったと思う。
 シリーズものとしては安定した面白さではあったが、過去二作に比べるとちょっと物足らない。逆に言うと、このレベルで物足らないというぐらい、過去の二作が傑作だったということなので、贅沢な要求ではある。ホーソーンの謎も含め、次作も結局手に取ってしまう引きは大したものだ。