平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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貴志裕介『悪の経典』上下(文春文庫)

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

悪の教典〈上〉 (文春文庫)

悪の教典〈下〉 (文春文庫)

悪の教典〈下〉 (文春文庫)

晨光学院町田高校の英語教師、蓮実聖司はルックスの良さと爽やかな弁舌で、生徒はもちろん、同僚やPTAをも虜にしていた。しかし彼は、邪魔者はためらいなく排除する共感性欠如の殺人鬼だった。学校という性善説に基づくシステムに、サイコパスが紛れこんだとき――。ピカレスクロマンの輝きを秘めた戦慄のサイコホラー傑作。(上巻粗筋紹介より引用)

圧倒的人気を誇る教師、ハスミンこと蓮実聖司は問題解決のために裏で巧妙な細工と犯罪を重ねていた。三人の生徒が蓮実の真の貌に気づくが時すでに遅く、学園祭の準備に集まったクラスを襲う、血塗られた恐怖の一夜。蓮実による狂気の殺戮が始まった! ミステリー界の話題を攫った超弩級エンターテインメント。(下巻粗筋紹介より引用)

別冊文藝春秋』2008年7月号〜2010年7月号連載。2010年7月、上下巻単行本発売。文春ベスト、このミス、ともに第1位を獲得。2010年、第1回山田風太郎賞受賞。2011年11月、「秘密」と書下ろし「アクノキョウテン」を追加し、ノベルス版刊行。2012年8月、文庫化。



2010年のミステリ界の話題を攫った、貴志裕介の超大作。今頃読んだが、とにかく凄い。サイコホラーであり、超弩級のエンターテインメント。はっきり言って、殺人鬼の話だし、最後は大量殺戮を行うのだから、内容としてはひどいのだが、それでもページをめくる手が止まらないというのは、それだけ読む者の目を惹き付けるだけの内容があるということ。本当にこういう人物がいるんじゃないかと思わせるところに、見事なリアリティがある。連続殺人者(シリアル・キラー)が大量殺人者(スプリー・キラー)に切り替わるところは、本来なら相容れないところがあるのだが、実に面白い。

まあ、現実的に考えたら、これだけのことをする前にばれていそうな気がするし、最後の殺戮なんて本当に逃げ出すチャンスはなかったのかなんて考えてしまうが、その辺は野暮な話か。最後の蓮見のゲームは、自室に残っているデータなどを捜査されると成功する可能性がかなり低いと思うけれど……。

ある意味悪夢に近い、強烈な印象を与える、そして忘れられない作品だ。傑作。