平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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三津田信三『生霊の如き重るもの』(講談社ノベルス)

 

生霊の如き重るもの (講談社ノベルス)

生霊の如き重るもの (講談社ノベルス)

 

  刀城言耶は、大学の先輩・谷生龍之介から、幼い頃疎開していた本宅での出来事を聞かされる。訥々と語られたのは、『生霊』=『ドッペルゲンガー』の謎だった。怪異譚に目がない言耶は、その当時龍之介が見たものが何だったのか、解明を始めるのだが……(「生霊の如き重るもの」)。表題作ほか4編を収録した、刀城言耶シリーズ短編集最新作。(粗筋紹介より引用)
 『メフィスト』他掲載。2011年7月、講談社ノベルスより刊行。

 

 刀城言耶の学生時代の探偵譚5編を集めた短編集。雪の中で下駄だけが歩いているのを刀城が目撃する雪密室もの「死霊の如き歩くもの」。天魔という屋敷神を祀る家の裏庭の竹やぶで起きる人間消失「天魔の如き跳ぶもの」。屍蝋化した木乃伊が眠る、屋敷の庭にある池の島で起きた不可能殺人事件「屍蝋の如き滴るもの」。戦争から後継が帰ってきてから2年後、同じ名前を名乗る人物が帰ってくる「生霊の如き重るもの」。近所の子が旅芸人の一座を追ってそのまま消えてしまった消失もの「顔無の如き攫うもの」。
 短編である以上、作者の持つホラー味が薄くなっているが、かえって読みやすくなっているのは皮肉だろうか。個人的にはこれぐらいで十分だなあ。
 雪密室ものが2編あるが、個人的には少々無理が見える「死霊の如き歩くもの」よりも、シンプルかつ大胆な証拠の消滅方法が印象深い「屍蝋の如き滴るもの」の方が面白かった。無理なくあっと言わせるものの方が好きだな。
 「天魔の如き跳ぶもの」のトリックは誰かの推理クイズで見たな(藤原宰太郎加納一朗ではない)。実現の可能性は低いだろうし、結末まで含め、ほとんどバカミスみたいな作品。
 「生霊の如き重るもの」は『犬神家の一族』みたいな設定かと思わせたが、最後の推理は怒涛の展開。全員を前にしての謎解き、という作品ではなかったので、カタルシスが今一つだったのが残念なところか。
 「顔無の如き攫うもの」は学生たちの怪談話の集まりに割り込んだ刀城が、過去の体験談を聞いて謎解きをするという安楽椅子探偵もの。消失トリック自体はよくあるものだが、それを支える舞台設定が秀逸。本作品中のベスト。
 三津田信三って長編よりも短篇の方が肌に合うな、自分の場合は。他の作品も読んでみよう。