平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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三津田信三『幽女の如き怨むもの』(原書房 ミステリー・リーグ)

幽女の如き怨むもの (ミステリー・リーグ)

幽女の如き怨むもの (ミステリー・リーグ)

10歳で売られ、13歳で「金瓶梅楼」の花魁となった緋桜。数か月後、売上No.1の花魁、通小町が別館の三階から身投げして死亡する。さらに身投げの理由を知った緋桜自身も魔が差し、同じ部屋から身投げしそうになるところを助けられた。そして堕胎したばかりの月影も身投げし、こちらは偶然助かった。緋桜は大店の若旦那に見初められ、身請けされた。

戦時中、「金瓶梅楼」の女将の娘である半藤優子が後を継ぎ、「梅遊記楼」と名を変えた。仲介屋から紹介された呉服問屋の旦那の妻を二代目緋桜として売り出すも、その二代目を含む三人が同じ部屋から似たような身投げ事件を引き起こす。

戦後、同じ場所に「梅園楼」が開かれ、当時「金瓶梅楼」「梅遊記楼」で働いていた花魁たちも集まり、さらに三代目緋桜を売り出すも、またや三人が連続身投げ事件を引き起こした。

2012年4月、書下ろし発表。刀城言耶シリーズ8作目。



ホラーと本格ミステリを融合させるこのシリーズだが、本作はかなり異色。1/3を占める第一部は戦争前、初代緋桜の日記。第二部は戦時中、遊郭の女将だった女性の語り。第三部は戦後、小説家だった男の未完の原稿。そして第四部でようやく刀城言耶が本格的に出てきて、謎解きを行う。

刀城が「はじめに」で語るように、本作では「密室や人間消失も、連続殺人や見立て殺人も、試行錯誤によって齎される多重解決やどんでん返しも、恐らく何もない」作品である。第三部までは完全にホラー、というか日本的な怪談であり、第四部で刀城が解決を行うも、それは全てではない。解決の「衝撃さ」のインパクトが強いためあまり気にはならないものの、それでもスッキリしない部分があるのは事実。それもまた人の闇なのかもしれないが。

ただ、この解決、というか肝になる部分はさすがに有り得ない。形式上は可能だが、周りがライバルだらけ、裸の付き合いともなる遊郭で隠し通すのは無理と言ってよい。衝撃と言ってしまえば衝撃だが、そう簡単に受け容れることは難しい。

第二部の死体の正体なんかは巧く伏線も張られているなとは思うし、事件全体を通した連続身投げ事件の謎なども、釈然としない部分がありながらも時代と舞台をうまく使ったプロットだとは思った。花魁の世界の内情も、資料に頼るところは多かっただろうが、物語にうまく溶け込んでいる。いつもの鬱陶しい推理がないため推理を楽しむことはできた。そう考えると惜しい作品である。