平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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紙城境介『僕が答える君の謎解き 明神凛音は間違えない』(星海社FICTIONS)

 生徒相談室(カウンセリングルーム)の引きこもり少女・明神(あけがみ)凛音(りんね)は真実しか解らない。どんな事件の犯人でも神様の啓示を受けたかのように解ってしまう彼女は、無意識化で推理を行うため、真実に至ることができた論理がわからないのだった。伊呂波(いろは)透矢(とうや)は凛音を教室に復帰させるため、「彼女の推理」を推理する――。本格ラブコメ×本格ミステリ、開幕――!(粗筋紹介より引用)
 2021年2月、書下ろし刊行。

 後楽瀬楽先輩(二年三組・女子バレー部所属)が彼氏の空科沖人(三年四組・男子バスケ部)からサプライズでもらった指輪が、部活中に女子更衣室のロッカーのバッグの中か盗まれたという。瀬楽先輩の話の途中で、凛音は「あなたの指輪を盗んだ人は、いま仰った、親友の澄ちゃんとやらです」と告げる。「第1話 澄ちゃんさんと女子の証明」。
 4月27日、登校すると机が落書きだらけになっていた明神凛音は、いきなり紅ヶ峰亜衣の頭に拳骨を叩きこみ、「あなたが犯人です」と告げた。しかし証拠はない。続けて蹴りを飛ばした凛音と亜衣の間に入った伊呂波透矢は亜衣を庇う。一か月後、生徒相談室に引きこもった凛音を教室に連れ戻してほしいと、スクールカウンセラーかつ凛音の実姉である明神芙蓉に、内申点を報酬に頼まれた透矢は、なぜ亜衣が犯人と分かったのかを推理する。凛音と透矢のファーストコンタクトを描いた「第2話 チビギャルさんと乙女の逆鱗」。
 体育倉庫に人魂が出るという噂を亜衣から聞いた透矢。さらに吹奏楽部三年生ピアノ担当の松田模子先輩からは、二年前にいじめられた男子が倉庫に閉じ込められ、扉は外から鍵が掛けられ、窓には鉄格子があるのに翌朝になったら跡形もなくいなくなった神隠しの話が人魂の元ネタかもと聞かされる。しかもその男子はそのまま学校に姿を見せず転校したという。生徒相談室に戻ったら、陸上部所属三年生の金宮沙夜より、人魂の正体を突き止めてほしいと頼まれた。実は沙夜は、二年前に男子をいじめて閉じ込めたグループのリーダーだった。「第3話 カマトト先輩と囚われた体育倉庫」。

 

 作者は2014年、「ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件」にて第1回集英社ライトノベル新人賞優秀賞を受賞し、2015年、同作でデビュー。2018年、「継母の連れ子が元カノだった 昔の恋が終わってくれない」にて第3回カクヨムWeb小説コンテストラブコメ部門大賞を受賞。ということですが、名前を聞くのは初めての作家です。それ以上に、星海社という出版社も初めて知りました。勉強不足で申し訳ない。
 某氏に本格ミステリとして面白いと聞かされて購入。名探偵役が犯人を指摘した後、他人がその過程を推理するという、というのはどこか最近似たようなのを読んだな、と思ったら、意味合いが違うけれど『medium 霊媒探偵城塚翡翠』に似ているんだと気付いた。だが本作は、凛音は推理によって犯人を指摘するが、凛音自身がどのように推理したかがわからず、代わりに透矢が推理の過程を見つける、という趣向になっていて面白い。凛音は神社の娘、透矢は父親が殺され、母親が容疑者として捕まったが無実とわかり、その過程で弁護士に憧れ、推定無罪を貫くという設定になっている。無茶苦茶キャラ立ちしているやん、と思ってしまう。その行動が青臭いところは、やはり高校生なんだなと思わせる。
 趣向の方は面白く、透矢の詳細すぎる日記付けなどの無理矢理感が否めない部分はあるものの、推理する過程は本格ミステリとして楽しい。一方、ラブコメとしては王道路線なのか、二人が一つのロッカーに隠れる、別の娘が聞き耳を立てていたら二人がそれらしき行為に及んでいるかのような声を上げているなど、テンプレートな展開が続き、さすがにこの年になると読んでいて少々気恥しい。
 これは続編があるかのような引きだが、ぜひとも続きを書いてほしいものだ。いっそのこと、『本格ミステリ・ベスト10』に入らないかな。