- 作者: 稲見一良
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1997/06
- メディア: 文庫
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1994年5月、新潮社より単行本刊行。1997年7月、文庫化。
制作プロダクションの企画・脚本担当、金巻銅太からの依頼は、映画『聖夜物語』の共同制作者であるキタ動物ランドの経営者の四男・小雪が、骨折した上に破傷風にかかったトナカイ、トカチンとともに行方不明になったから捜してほしいというものであった。行先は有馬温泉。竜門は金巻とともに小雪の後を追う。「トカチン、カラチン」。
建築業の社長の大きな犬小屋から逃げ出したワイマラナーは、梅田の流しの艶歌師が連れて歩いていた。「ギターと猟犬」。
日本有数のサラブレッド競走馬の調教所から、最古参の馬丁が引退して伝染病にかかった馬とシェパードを連れて出て行った。社長からの依頼を受けた竜門は、かつて関わった長距離トラック運転手を通し、馬と犬の情報を探す。「サイド・キック」。タイトルのサイド・キックとは、相棒のこと。
ストリート・ファイターである天童雷太からの依頼は、隣人の女性が飼っているチェスピーク・リトリーバーがいなくなったので、探してほしいというものだった。竜門は調べていくうちに、周辺で猟犬失踪事件が続いていることを知る。「悪役と鳩」。
短編「セント・メリーのリボン」に出てきた、猟犬捜しを専門とする探偵・竜門卓を主人公とした短編集。たしかにあれ1作で消えるには勿体ない造形だった。本当に猟犬捜し専門の探偵がいるのかどうかは知らないし、それで食べていけるのかは疑問だが、そういうくだらない現実は無視して、作品世界に没頭することが大事である。実際読んでいると、そんな些末なことは気にならなくなるし。
老犬の相棒ジョーとともに猟犬を探すその姿は、まさに正統派ハードボイルド。己が定めたルールに従って生き、己のルールに従って行動する。例えそれがどんな相手であろうとも。一人で生きているくせに、人へ向ける視線は非常に暖かい。
本当だったら、もう1、2編ぐらい書いていてから出版されたのだろう。文庫版で見ると、非常に薄い。しかし中身はとてつもなく厚い。読者の感動をひき起こす。それでも、もっともっと、竜門の活躍を読みたかった。