平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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荻原浩『ハードボイルド・エッグ』(双葉文庫)

ハードボイルド・エッグ (双葉文庫)

ハードボイルド・エッグ (双葉文庫)

最上俊平は中学生の時に読んだフィリップ・マーロウに憧れ、私立探偵を営むようになったはいいが、仕事の8割はペット探しで、2割は浮気調査。それでも利益が出るようになった最上は美人秘書を雇うべく張り紙を出したが、声と他人の写真に騙され、片桐綾という老婆を雇う羽目に。ペット探しの依頼主自体が夜逃げしてしまったシベリアンハスキー犬を、知古の柴原アニマルホームに引き取ってもらうが、柴原の妻・翔子の父親である相沢清一が、犬に噛み殺されてしまう。警察は、逃げたシベリアンハスキー犬の仕業とほぼ断定し、柴原はマスコミに非難される。真犯人は別にいると睨んだ最上は、綾とのドタバタを繰り広げながら、犯人に迫る。

1999年10月、双葉社より刊行。2002年10月、文庫化。



ハードボイルドとマーロウにとことんこだわり、同じ行動を取ろうとしてことごとく失敗する最上や、なんだかんだいいながらいいコンビワークを見せる綾とのやり取りが面白い。もちろんハードボイルドを馬鹿にしているわけではないから、小説上の理想と現実とのギャップが素直に笑える。おまけに相棒は、さらにギャップが大きすぎる。よくぞまあ、こんな設定を考え出したものだ。

前半は笑いばかりだが、殺人事件が発生した後半でも、締まりのない行動と思考は止まらない。しかしそれすらも逆手に取ったラストは、なかなかほろりと来るものがある。なんだかんだいいながら、「優しくなければ生きてはいけない」を最上は実践できているのだろう。

以前から薦められていたのだが、ようやく読むことができた。なるほど、これはハードボイルド史の片隅に書かれてもおかしくはない作品だろう。さて、『サニーサイドエッグ』も読むこととするか。