平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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蘇部健一『小説X あなたをずっと、さがしてた』(小学館)

奈子は、大学の通学路でいつもすれちがう男性がとても素敵で、ずっと気になっていた。話しかけることもできず日々は過ぎ、いつのまにか彼に逢えなくなってしまう。彼に再会する日を夢見る奈子。だが、親友の葵とともに彼をさがすも、いつもあと一歩のところですれちがってしまう。衝撃の結末が待ち受ける恋愛ミステリー。(粗筋紹介より引用)

小学館文芸サイト・小説丸に掲載。2018年1月、刊行。



「小説X あなたのつけたタイトルが本になる」としてWEBで期間限定全文無料公開し、タイトルを募集した作品。総閲覧数14000人、タイトルには1261本の応募があったという。本書の表紙の帯に「ラスト一行に、命を懸けました!!」と作者の言葉があるとおり、最後の一行で驚愕の結末が待っている。もっとも、最後にイラスト1枚持ってきてオチをつけるなどの手法は蘇部健一の得意技であり、それをあえてラスト1行に集約した、といったところか。中編程度の枚数だが、作者の特質を考えると、長編には向いていないから仕方の無いところ。1時間で読めるとの看板に嘘偽りはない。

ストーリーは、すれ違った相手通しを互いに良いなと思いつつ、結局すれ違ってなかなか先に進めない、という王道の展開。もっとも普通の恋愛譚に見えて、途中からかなり強引であり、特に結末に至ってはかなりの力業である。まあ蘇部健一だからいいかな、というところがあるのも事実。個人的にはその後どうなったかの方に興味があるけれどね。

短編小説「四谷三丁目の幽霊」も男女のすれ違いを書いた短編。こちらはよくあるラブコメ。最初からたくあんやちくわぶを折りたたみ傘と勘違いするというあり得ないエピソードから始まり、冗談のような勘違いが続く。あの名字はさすがにないだろう。まあ、幸せになってねと言うだけのお話。

久しぶりに蘇部健一を読んだ。本屋へ行く回数が激減しているし、行ったとしても近所の小さな本屋が中心で、いわゆる大型書店に入っていないから、人気作家でないとほとんど見かけることがない。残念ながら作者の新刊は、近所の本屋には全然入っていないようだ。今回はたまたま遠方への買い物の帰りに大型書店へ寄ってみて見つけた一冊。WEBを見ると、時給1000円の牛丼屋で働きながら、執筆活動を続けているとのこと。いろいろ大変だろうが、がんばってほしい。