平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大石直紀『テロリストが夢見た桜』(小学館文庫)

テロリストが夢見た桜 (小学館文庫)

テロリストが夢見た桜 (小学館文庫)

「博多発東京行きのぞみ16号を乗っ取りました」

新幹線運行本部にかかってきた一本の電話。犯人は日本に拘留中のイラク人大物テロリストと来日中のパウエル米国務長官とのテレビ生討論を要求してきた。さらに大勢の人質の身代金としては少額の一〇〇万ドルを用意せよと。

次々と講じてくる犯人の奇策に翻弄される警察。姿の見えない犯人に怯える乗員乗客。厳重警戒のなか、のぞみは刻一刻と“終着点”へと向かっていく。果たして犯人の目的は反米テロか金か、それとも……。テロリストが描いていた意外な「夢」とは――。第三回小学館文庫小説賞受賞作。

2003年10月に単行本で刊行された作品を一部加筆訂正の上、2006年4月に文庫化。受賞時のタイトルは『ジャッカーズ』。



作者の大石直紀は1999年、『パレスチナから来た少女』で第2回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞してデビュー。2003年に本作で小学館文庫小説賞を受賞。2006には『オブリビオン』で第26回横溝正史ミステリ大賞テレビ東京賞を受賞している。これだけ賞を取っていればそれなりの実力があると見るべきなのだろうが、逆を言うと賞止まりの実力しか持ち合わせていない、ということにつながるのかもしれない。三作ぐらいで出版社から切られた別の賞に応募していることは、本人もインタビューで語っている。

本作品も設定は面白いのだが、犯人の行動にはどうしても素人くささが目立つ。逆に言えば、この程度のことで翻弄される警察も警察。そのくせ犯人の名前や背景は簡単にわかってしまうのだから、ちぐはぐだ。それにいくら人命がかかっているとはいえ、米国務長官が簡単にテロリストとのインタビューに応じるというのも不自然。これだけの事件なのに政治家サイドや官僚が全く描かれないのも奇妙。結末も中途半端すぎ。のぞみ乗っ取りというスケールの大きさのわりに、書かれていることがせせこましい。それにこのテーマなら、車掌の中途半端なエピソードや背景などは無意味。枚数制限があるのだから、車掌の話を削って、追う側のほうをもっと書き込んでほしかった。

中途半端なサスペンス。『パレスチナから来た少女』を読んだときもたしかそう思ったはず。大きな事件を書くのなら、もっともっと書き込むだけの努力をしてほしい。行間から作者の努力がにじむくらいに。