平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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小杉英了『先導者』(角川書店)

先導者

先導者

名も無き15歳の少女は「先導者」として認可された。地位や金を持った人物が亡くなった後、再び地位や金を持つ家計に生まれ変わらせるために魂を導く役割を持っている。生と死の世界を行き来するためには相当の体力を必要とし、時には肉体の一部を犠牲にすることもある。認可された少女は北國の人里離れた山間の地のコテージに移り住んだ。自立した生活が困難な彼女のために、三十半ばの曾祢茂が世話人として就いた。

2012年、第19回日本ホラー小説大賞受賞。応募時タイトル『御役』。改題、加筆修正の上、同年10月、単行本刊行。



作者は第14、15、18回と最終候補に選ばれるも落選。4回目となる第19回で見事大賞を受賞した。

死者を導くという設定は目新しいものではないが、主人公の少女の一人称視点で話を進め、体感する内容を事細かに書いていくというのはあまりないのではないか。死者の世界に入り込むまでの描写が何ともリアルで、作者自身が本当に経験したのではないかと思わせるほど優れている。

ただ、本書の良いところはここまで。「先導者」としての仕事を当たり前と思っている少女が主人公でかつ一人称なので、背景が全くわからないまま事が進んでいく。誰がこのようなシステムを作り上げたのか、対抗するのはどのような相手なのか、などといった点が全く不明なのは、やはり物足りない。逆に言えば、何も知らない少女を主人公にしたため、その辺の設定をあえて曖昧にしたまま物語を進めてしまう、という荒技ができるわけで、しかも実際に進めてしまっているのだから、良い意味でも悪い意味でも恐れ入ってしまう。いっそのこと短編で終わらせてしまうという選択肢もあったような気がするが。

読める作品には仕上がっているけれど、もっと書き込みがほしかった。途中から三人称にすれば、もっと違った展開も作ることができたんじゃないだろうか。