- 作者: 鮎川哲也
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1986/01
- メディア: 文庫
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『週刊新潮』1982年10月21日号〜1983年5月12日号連載。1983年12月、新潮社より単行本刊行。1986年1月、文庫化。
結果的に鮎川哲也最後の長編となった一作。最もご本人はそういうつもりは無かっただろう。『白樺荘事件』が出ていればなあ……。
プロローグでZがAを殺害し、PとOがドライブするシーンが出てきて、作者は正体を追求することが物語の最終的な標的となる、と書いているが、意味深な書き方のわりに犯人を捜すのは当たり前のことなので、それほど効果があったとは思えない。伏線が張ってあるのは理解できるが、単行本にならないと読者は忘れているだろうし、まとめて読んだとしても必要性を感じない。ここに書いてあるのに気付かないのか、と読者を笑おうとしているに過ぎない。
本編に入ると、非常に地味な展開。容疑者ではなく、容疑者のアリバイを偽証した人物のアリバイを破るというのはちょっと珍しいかもしれないが、アリバイトリックがつまらないので、面白さに欠ける。しかも警察が一度は決着を付けた後、アリバイを偽証した人物と被害者の恋人が事件の謎を追うというのも、鬼貫警部が出ているのに珍しい展開となるが、素人があっさりと事件の謎に肉薄するというのもどうか。通常なら警察が動機を調べる上で最初に捜査すべき内容だろう。この時点で完全に白けてしまった。
最後は鬼貫と丹那刑事が容疑者を追い詰めるのだが、疑問に思っていたのなら自分たちでさっさと捜査しろ、と言いたい。
週刊誌連載には向かない鮎川を無理やり引っ張りだしたせいか、何とか何とか盛り上げようと、容疑者を出しては実は犯人ではないという無理な展開を続け、さらに素人がしゃしゃり出てなぜかトラベルミステリーみたいな旅先案内になったり、何とも涙ぐましい努力を続けているのが物哀しい。さらに一番目の事件のアリバイトリックがあまりにも小粒だし(警察もまずは調べそうなものだが)、二番目の事件に至ってはトリックすらない。
はっきり言ってつまらない作品である。駄作といってもいい。