平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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鮎川哲也『沈黙の函』(光文社文庫)

沈黙の函 (光文社文庫)

沈黙の函 (光文社文庫)

函館で珍しい蝋管レコードが発見された。中古レコード店の経営者が引き取りに出かけるが、彼はレコードを函館駅から発送したまま行方不明に。上野駅に到着した梱包を開いてみると、中からレコード店主の生首が……! ご存じ鬼貫警部は、難事件をどうさばく? 代表作『黒いトランク』に勝るとも劣らない本格推理問題作!(粗筋紹介より引用)

小説宝石』1978年新年号〜五月号まで『蝋の鶯』のタイトルで連載。加筆改題の上、 1979年3月、カッパ・ノベルスより刊行。1984年12月、光文社文庫化。



鮎川哲也の読み残しの一冊。読み終わってみて、はっきり言ってつまらなかった。本当に当時、受け容れられたのだろうか。

トリックとしては、函館駅から荷物を発送したまま行方不明になったレコード店主の生首が、上野駅に到着した荷物の中から出てきた、というもの。ある程度は予想できるものであり、面白さに欠ける。小説としては、レコードや音楽に対する薀蓄こそちょっとだけ楽しめたもの(とはいえ、かなりくどい)の、事件の謎や犯人当てといった点では非常につまらない。

そもそも、警察の捜査に疑問が残る。なぜ動機をもつものを捜査しないのか。そもそも事件関係者をまず洗い出すだろう。あまりにもセオリー無視の捜査が、小説をつまらなくしている。容疑者のアリバイを探しあてるのが一介の探偵というのも、すっきりしない。警察はそこまでバカなのか。最後に鬼貫が出てきて、あっという間に事件を解いてしまう。だったら最初から出せよ、警部なんだから。

私が鮎川哲也を嫌うのは、こういった点。トリックさえよければ、後はどうでもいいと言ったところが嫌なのだ。つまらない作品である。トリックを知りたい人以外は、読まない方がいい。時間の無駄である。