平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ノーマン・ベロウ『魔王の足跡』(国書刊行会 世界探偵小説全集43)

魔王の足跡 世界探偵小説全集 (43)

魔王の足跡 世界探偵小説全集 (43)

1855年2月8日、悪魔が英国に降り立った。デヴィン州各地で不思議な蹄の足跡が多数目撃されたのである。それから約一世紀後のある雪の朝、田舎町ウィンチャムに再び悪魔の足跡が出現した。まっさらな新雪に覆われた道の中央に突如現れた蹄の足跡は、あちこち彷徨い歩きながら丘を越え、野原の真ん中にたつオークの木へと続いていた。謎の足跡を辿る一行は、そこで大枝からぶら下がった男の死体を発見する。蹄の足跡は木の傍らで忽然と途切れ、まるで足跡の主が虚空へ消え失せたとしか思えない状況だった。しかも、問題の木には、昔魔女が縛り首になった伝説があるという。怪奇趣味満点、幻の不可能犯罪派ノーマン・ベロウ、本邦初紹介。(粗筋紹介より引用)

1950年、発表。2006年1月、邦訳刊行。



ノーマン・ベロウと言われても全く知らない作家だった。1902年生まれで、人生のほとんどをオーストラリアやニュージーランドで過ごしたらしい。1934年、The Smokers of Hashishでデビュー。1957年までに長編20作を発表。版元は貸本系出版社だったとのこと。本書に出てくるランスロット・カロラス・スミス警部は作者の過去4作の名探偵役として登場する。

雪に覆われた道の中央にある蹄の足跡を、みんなで呑気に追いかける姿は呑気というか、のどかというか。伝説がある木に男の死体がぶら下がっており、足跡は消えているという、不可能趣味が好きな人にはたまらない設定。だが、これが全然面白くならない。不可能趣味というのはあくまで周囲がドタバタするユーモアとか、恐怖する怪奇要素とかがないと、これだけつまらないものなのだと改めて知ってしまった。せめて名探偵役がエキセントリックならよかったのに、これがまた淡々と事件を解くだけ。これじゃ、せっかくの不可能犯罪も魅力半減である。

ましてや、蹄なんてだれかがスタンプのように型を押したなんてわかりそうなものなのに、登場人物が怪奇現象だって騒いでも興醒めするというか。
こういう作品を発掘したことには素直に感心するけれど、本国で売れなかったというのもわかる気がする。例え黄金時代に出版されていたとしても、うけなかっただろう。本格ミステリは謎だけがあっても、通用しないものなのだ。