- 作者: 倉狩聡,西島大介
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2015/09/24
- メディア: 文庫
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2013年、「かにみそ」で第20回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞。短編「百合の火葬」を加え、同年10月、角川書店より単行本刊行。2015年9月、文庫化。
タイトルがタイトルなので、一体どういう話かと思ったら、意外と友情物語だった。「泣ける」かと聞かれればやや微妙だが。
無気力な20代無職の青年が拾った蟹は何でも食べ、気が付いたら主人公と喋るようになり、テレビも見るようになる。蟹の餌のために働き出した青年は、職場でできた彼女を殺してしまうが、蟹は遠慮なく食べてしまう。
まあ、正直言ってホラー要素はあまりない。いや、蟹が喋るだけでも不気味だし、死体を食べるようになるところも不気味なのだが、ユーモアのある文体と、蟹が喋ったり死体を食べたりすることに大した違和感を抱かない主人公のおかげで、本来そこにあるはずの恐怖感が全くないところが、逆に面白い。
それにしても物語の最後はひどい。まあタイトルからだいたい予想つくだろうが、何もかも運命と思って全てを受け容れる蟹が何とも哀れで、それでいて可愛らしいから不思議だ。変な言い方だが、男にとって都合のいいセックスフレンドみたいな存在が、この蟹なのだ(考えてみると、名前すらないのか……)。本来ありえない姿であるのはこの蟹なのに、不気味なのは人間である青年の方だというのは、よく考えられた構成である。これだったら優秀賞でなくも、大賞でもよかったと思うのだが。
同時収録の「百合の火葬」は、女癖の悪い父親が死んで独りぼっちとなった大学生の家に、昔関係のあった女性が訪れて住むようになる話。この女性が裏庭に百合を植えるあたりからどんどん恐怖感が増していく、正統派ホラーである。ただ、「かにみそ」のユーモアを読んだ後ではあまりにもスタンダードすぎ、物足りなかったことも仕方のないことか。
「かにみそ」の路線で長編を書ければ、結構売れるかも。頑張ってほしいものである。