平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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内藤了『ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』(角川ホラー文庫)

奇妙で凄惨な自死事件が続いた。被害者たちは、かつて自分が行った殺人と同じ手口で命を絶っていく。誰かが彼らを遠隔操作して、自殺に見せかけて殺しているのか? 新人刑事の藤堂比奈子らは事件を追うが、捜査の途中でなぜか自死事件の画像がネットに流出してしまう。やがて浮かび上がる未解決の幼女惨殺事件。いったい犯人の目的とは? 第21回日本ホラー小説大賞読者賞に輝く新しいタイプのホラーミステリ!(粗筋紹介より引用)

2014年、第21回日本ホラー小説大賞読者賞受賞。応募時タイトル『ON』。改稿の上、同年10月、角川ホラー文庫より刊行。



連続殺人事件を起こした人たちが、自ら犯した殺人事件と同じ手口で自殺するという連続事件の謎を、一度見たものはどんなものでも記憶できるという特技を持つ、八王子西署の刑事組織犯罪対策課の若手刑事、藤堂比奈子が追いかけるというもの。猟奇的な殺人方法などはホラーっぽさがあるものの、連続テレビドラマで取り上げそうな捜査物のミステリであり、ホラー小説大賞が応募先だったというのには違和感がある。

内容としても藤堂の目線で話が進むし、ベテラン刑事の厚田巌夫、若手先輩刑事の東海林、検死官の石上妙子といった周りの個性的なキャラクターも含め、シリーズ化を前提とした描き方には、作者の戦略が見えてきてあまり好きになれない。事件の真相も、動機こそは面白いが、これで本当に実行が可能かと読者を納得させる(想像させる)説得力が大きく欠けているのは残念。ただし、読みやすいこと自体は確か。凄惨な内容の割に怖さが伝わらない描写不足は、広範囲に読者を獲得するための作戦と好意的に解釈しよう。量産できるタイプの作品に仕上がっている。

続編が書かれるだろうなあ、と思っていたら、もう何冊も出ているし、テレビドラマ化もされていた。それ自体は納得。どうしたらシリーズ物として売れるのか、という模範的な作品である。