平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ドナ・M・レオン『死のフェニーチェ劇場』(文藝春秋)

死のフェニーチェ劇場

死のフェニーチェ劇場

イタリア・ベニスのオペラ座フェニーチェ劇場で、世界的なドイツ人指揮者のヘルムート・ヴェルアウアーが、オペラ「椿姫」の終幕直前、楽屋で毒殺されていた。ベニス警察のブルネッティ副署長が捜査に乗り出すが、ヴェルアウアーには、過去の言動や行動から色々なトラブルがあったことがわかった。関係者に聞き込みを続けるブルネッティは、やがて犯人に辿り着く。

第9回サントリーミステリー大賞受賞作。1991年7月刊行。



登場人物のブルネッティってなんとなく聞き覚えがあったのだが、調べてみるとシリーズものになっていた。『異国に死す』(文春文庫)、『ヴェネツィア殺人事件』(講談社文庫、CWA賞受賞)、『ヴェネツィア刑事はランチに帰宅する』(講談社文庫)が邦訳されており、本作は初登場作品である。

殺人事件が起きて、生粋のベニス人であるブルネッティがローマから来た署長のイヤミを聞き流しながら、事件関係者に聞き込みを続けて真相に辿り着く。申し訳ないがそれだけ。続けて殺人事件が起きるわけでもなし、犯人逃亡などのサスペンスもなし。イタリアの警察って、こんなに単独で動いても許されるのかね、よくわからないけれど。他の刑事もほとんど出てこないし。ブルネッティの家族想いらしいエピソードが所々挟まれるのは微笑ましいが、ストーリーの退屈さを補うには至らず。本来だったら、主人公が出会う人々とのやり取りを楽しむところなんだろうけれど。それとなく伏線は張られているので、早々に真相に辿り着く人がいるかも知れない。というか、捜査の最初で検討すべき内容じゃないか。

イーデス・ハンソンの選評だとベニスの風景や描写がよいと書かれているのだが、読んでいてもどことなく平板的で、ピンと来るものはなかった。これは文章、というより訳の方に問題があったのかも知れない。