- 作者: 打海文三
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1993/05
- メディア: 単行本
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1993年、第13回横溝正史賞優秀賞受賞。同年5月、単行本化。
いやー、読みづらい。本当に読みづらい。背後の説明が全くないまま会話が進むので、彼らが何を言っているのかさっぱりわからない。ここまで読者を無視している作品も珍しい。「民間の調査機関である東亜調査会」と書かれているから、てっきり政府か有力政党の調査機関の隠れ蓑かと思ったら全然違うし。冒頭がウラジオストクだから、対ロシアかなと思ったら、実は北朝鮮が相手だし。半分くらい読まないと、小説の背景や登場人物の立ち位置が掴めない。人物像自体浮かび上がってこない。情報は錯綜しているし、ストーリーは整理されていない。佐野洋が「文章がわかりにくく、半分ほど読んで退屈してしまった」というのもわかる。本当に退屈だから。
ただし、妙な迫力というか、独特の雰囲気があるのも事実。ただ読み終わってみると、最初に感じていたスケールの大きさがどんどん小さくなっていっているのは残念。間違いなく、未完成作品である。それでも、選考で落とすには惜しいと思わせる何かがあったのだろう。それが優秀賞という位置付けなんだろうと思う。
作者の後の活躍を見ると、優秀賞とはいえ出版させたというのはかなりの目利きだ。これを推したのは夏樹静子と権田萬治だが、大したものだと思う。